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「東大でボクシング始めました」理科一類に現役合格、進学校のテニス部だった秀才はなぜリングに? 23年ぶりの優勝「東大理系ボクサー“衝撃KO”の真相」
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杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/18 11:02
東大ボクシング部で主将を務める伊藤朝樹(2年)。大学で競技を始めたにもかかわらず、関東大学3部リーグの優勝を果たした
駒場キャンパスの銀杏並木を歩くと、奥にラグビー場が見えてくる。グラウンド脇にポツンと建つのが格闘技場のようだ。2階には飾り気のない『ボクシング部』と書かれた淡青の幕がかかり、外観からも硬派な雰囲気が漂う。
年季の入った鉄階段を昇ると、大粒の汗を流す選手たちが必死にサンドバッグを叩いていた。本気の部活である。もともと体育会に入る予定はなかったものの、厳しい練習を終えると、いままでにない達成感を覚えた。足腰が立たないくらい追い込まれれば、「逃げたい。もう嫌だ」という思いも頭をよぎる。それでも、力をすべて出し切った爽快感は癖になりそうだった。
体験入部に誘ってくれた友達は1日でボクシングでのダイエットをあきらめたが、気づけば一人でまた足を運んでいた。正式な入部届けに伊藤朝樹の名前を書き入れ、未知なる拳闘の世界へ。
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格闘技の経験は一切なく、幼少期から喧嘩すらしたこともない。やんちゃな少年とは正反対の平和主義者。「人を叩いてはいけないと教えられてきましたから」とくすりと笑う。テレビなどでボクシングを観戦する趣味もない。中高時代は硬式テニスに打ち込み、ネット越しに相手とスコアを競ってきた。それでも、リングの上で拳を交えることに、あまり恐怖を感じなかったのだ。
「楽しそうだなって。殴られて痛そうという想像はしなかったです」
大学1年秋に休学…なぜ?
ボクシング部の活動は火曜・木曜・土曜の週3回。時間は2部制。伊藤の場合、授業を4限、5限まで受けて、19時50分から21時半までみっちりトレーニングする。試合前になると、週6回は練習に打ち込む。一人暮らしの部屋に戻れば、気絶したように寝床に倒れるが、学業をおろそかにはしない。課題の締め切りが迫れば、眠い目をこすって朝方までレポートを書く。部活と両立しながら単位を順調に取得し、入学から充実した大学生活を送っていたが、1年生の秋に休学を決意する。
ずっと胸の奥に秘めた思いがあったのだ。


