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メジャーリーグPRESSBACK NUMBER
「112球目のカットボールは失投だったのか」山本由伸"ノーヒッター未遂"真相…現地記者が見た悪夢の9回裏「この日の山本はほぼ完璧だった」
posted2025/09/13 11:09
ノーヒッター達成目前でホームランを浴びたドジャース山本由伸(27歳)。語り継がれる名勝負となった
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杉浦大介Daisuke Sugiura
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AP/AFLO
球場全体のテンションが一気に増したのは7回くらいだっただろうか。大記録達成が少しずつ近づいてきていた。ドジャースの山本由伸が見事なノーヒット・ピッチングを続け、選手、ファンだけではなく、記者席で試合を見るメディアたちも緊張し始めているのは明白。日本人記者が数多く座ったセクションからはこんな呟きも聞こえてきた。
「これはヤバいな……」
ここでの“ヤバい”はネガティブな意味ではない。山本のメジャーキャリアでも最高級の投球が展開され、記録達成は濃厚に思えたことを言い表していたのだろう。
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実際に9月6日、ボルティモアのカムデンヤーズで行われたオリオールズ戦で山本がみせたパフォーマンスはほとんど完璧だった。最速98.2マイルの速球と多彩な変化球でテンポ良くアウトを重ね、3回無死一、二塁のピンチも三振と併殺打であっさりと脱出。この日まで4連敗と苦しんでいたチームの連敗ストッパーを託され、「とにかく1イニング1イニングに集中して投げた」という気迫のピッチングは際立った。
野茂英雄もカムデンヤーズで達成
筆者個人としては過去、ロイ・ハラデイ(フィリーズ/2010年10月6日レッズ戦)、マックス・シャーザー(ナショナルズ/2015年10月3日メッツ戦)、ジョー・マスグローブ(パドレス/2021年4月9日レンジャーズ戦)のノーヒッターに居合わせた経験がある。中でもハラデイが成し遂げたプレーオフ史上2度目のノーヒッターは忘れられない。5回には記録達成をほぼ確信したほどで、おそらくこれまでライブで目撃した中で最高のピッチングだった。ただ、この日の山本もハラデイの時と同様に安打性の打球はほとんどなく、付け入る隙はまるで感じられなかった。
「素晴らしかった。いや、素晴らしいを超えるくらいだった」
試合後、デイブ・ロバーツ監督が残したそんな言葉はシンプルだったが、実感がこもっているのが感じられた。
振り返れば24年前、レッドソックス時代の野茂英雄が自身2度目のノーヒッターを達成したのは、ここカムデンヤーズだった。この日、10三振を奪った快刀乱麻はMLBでの山本のシグネチャーパフォーマンスとして記憶されることになっていたはずだった。あと、1つのアウトさえ取れていれば――。

