濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「新日本からしたら“ふざけんな”」葛西純と大流血戦、女子レスラーとの試合も…なぜエル・デスペラードは傷だらけでデスマッチを続けるのか?
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2025/08/24 17:00
新日本プロレスのIWGPジュニアヘビー級チャンピオンでありながら、デスマッチのリングに上がり続けるエル・デスペラード
〈「エル・デスペラード対葛西純のIWGPジュニア戦、最高でしたよ!」
興奮気味にそう伝えてくれたのは、僕のリハビリを担当して下さっているY先生
その試合がどれほど壮絶で、心に沁みる闘いだったのかY先生の話を聞くだけでガンガン伝わってくる
僕が知る葛西純という男は、何があっても真っ直ぐに自分自身の思いを貫く熱いプロレスラー
聞くところによると、10年後の2035年にデスペラード選手と葛西選手が再び闘う約束をしたと言う
よし!その試合はチケットを購入して必ず魅に行こう
やっぱりプロレスは最高だ!〉
Xにそう書いたのはプロレスラーの大谷晋二郎。試合中に頸髄損傷の大ケガを負い、長くリハビリ生活を送っている。大谷と葛西はかつて同じ団体(ZERO1)に所属。デスペラードにとって大谷は新日本ジュニアの大先輩ということになる。
デスペラードがデスマッチに挑み続けたこと、他団体に積極的に参戦してきたことは、もしかしたら“新日本らしさ”なのかもしれない。
なぜデスペラードは他団体のリングに上がるのか?
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女子選手Aoiとのシングルマッチ、伊藤麻希とのタッグ結成も実現させたデスペラード。新日本の選手としては異色に見えて、実は歴史に則っているとも言えるのだ。8月3日、プロレスリングBASARA後楽園大会のバックステージで、デスペラードに「リスクもありながら他団体に上がる原動力は?」と聞いた。彼はこの日、木高イサミと組んで神野聖人&中野貴人に勝利している。
「(原動力は)面白い選手と試合したい、それしかないですね。ウチだけが凄いわけじゃないってことはよく分かってるし。新日本が業界の盟主であるなら、よそ様の凄え選手を人目につくところでアピールするのも大事なんじゃないの?と」
そうして言及したのが、新日本のジュニアヘビー級参戦の歴史だ。ザ・グレート・サスケやハヤブサといったインディー団体の名選手たちも、新日本のリングで“全国区”になっていった。
デスマッチ、流血戦は怖くて見られない。新日本の選手が女子と組んだり闘ったりするのは見たくない。そういうファンもいるだろう。ただ歴史を遡れば、団体創設者のアントニオ猪木からして異種格闘技戦で名を上げたのだ。
プロレスラーが柔道の五輪金メダリストと、あるいはボクシングの現役世界王者と闘う。それは見る者にとっては“余計なこと”でしかない。しかしそこにロマンを感じるファンも多かった。むしろ“余計なことにこそロマンが宿る”と言ってもいいのではないか。
エル・デスペラードが描く世界観の中ではモハメド・アリと葛西純がつながる。それはやはり、プロレスのロマンと呼ぶべきだろう。


