濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「新日本からしたら“ふざけんな”」葛西純と大流血戦、女子レスラーとの試合も…なぜエル・デスペラードは傷だらけでデスマッチを続けるのか?
posted2025/08/24 17:00
新日本プロレスのIWGPジュニアヘビー級チャンピオンでありながら、デスマッチのリングに上がり続けるエル・デスペラード
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橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
新日本プロレスのIWGPジュニアヘビー級チャンピオンであるエル・デスペラードの背中は“ギザギザ”だ。ガラスや蛍光灯の破片の上で受身を取ってこうなった。つまりデスマッチファイターの背中。
新日本プロレスのトップ選手であるデスペラードだが、他団体の選手とも積極的に関わっている。とりわけ有名なのが“デスマッチのカリスマ”葛西純との関係性だ。何度も対戦し、またタッグを組むこともあった。
2022年のシングル対決では、ノーDQ(反則裁定なし)のデスマッチでデスペラードが勝利している。試合後の葛西の言葉は、プロレスファンにとってはすでに“伝説”だ。
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「お前、試合前に“死んでもいい覚悟でリングに上がる”って言ってたな。世の中には生きたいのに死んじまうやつだっているんだよ。俺たちは死んでもおかしくないリングに上がって、生きてリングを降りなきゃいけないんだろうが。死んでもいい覚悟なんて捨ててしまえ。そうしたら、お前はもっと強くなる」
生きて帰るのがデスマッチ。家に帰るまでがデスマッチ。それが葛西のモットーだ。デスペラードもデスマッチに挑むからこそ軽々しく死を口にしないと誓った。
マスクを剥ぎ取られ大流血、竹串の束を頭に刺され…
この試合で、2人のつながりはさらに深いものとなる。タッグ結成を経て、今年3月には3WAY(3人同時対戦)のデスマッチで闘った。バーブ佐々木レフェリーが主催した『CRAZY FEST』がその舞台だ。
リングに上がったのは葛西、デスペラード、そして日本を代表するデスマッチファイターの1人である竹田誠志。デスペラードはその道のトップ2人と同時に闘ったのだ。これほどリスキーなシチュエーションもないだろう。しかもデスペラードは、1月4日にIWGPジュニアのベルトを獲得したばかりだった。
しかしリスキーな闘いに挑む姿にこそ、ファンは感情移入するもの。結果として葛西にフォール負けを喫したデスペラードだったが、思い切りのいい“受け”も含めて観客を熱狂させた。マスクを剥ぎ取られ大流血、竹串の束を頭に刺され、ガラスボードでの攻撃は用意された2枚ともデスペラードが被弾している。
ガラスボードに投げられた時は「背中の皮膚、ついてんのか?」という恐怖を感じたとデスペラード。それは“メジャー選手の余技”などではまったくなかった。主催者でレフェリーのバーブは「これがデスマッチの力です! この試合を見て、明日からも生きていけませんか?」と感激を口にした。
あいつは“こっち側”の選手かもしれないと語ったのは葛西。デスマッチ、3WAYという形だが現役のIWGP王者に勝利したことになる。
「挑戦する資格はあるんじゃねえか?」
そう言った葛西だが、本音はまた違うところにあった。
「そんなことはまったく関係ないくらい、エル・デスペラードという男の中の男から3つ取ったことに価値があるんだよ」
血を流し合うだけではない、勝ち負けだけでもない。それはいわば“心意気のやり取り”だった。

