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驚異の56歳まで現役「競走を“集金”とは思えなかった」生涯獲得賞金30億円“競輪国宝”と呼ばれた神山雄一郎の狂おしいまでの自転車愛
text by

杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byKiichi Matsumoto
posted2025/08/25 11:02
昨年限りで現役を引退し、今春から日本競輪選手養成所の所長に就任した神山雄一郎(57歳)
2023年6月、55歳で通算900勝を達成。ラストランは2024年12月23日。取手競輪で通算909勝目を挙げて、その翌日に56歳で現役を退くことを発表した。「できることなら一生やり続けたいけど、結局は一生やれない仕事」。引退会見ではあふれる思いを堪え切れずに大粒の涙を流した。一つひとつの言葉には、競輪への強い思いがにじんだ。
「最後の年はトップクラスよりも下のランク(S級2班)で走っていましたが、特別競輪と同じような感覚でした。レースに向けて体をつくり上げ、本番で勝負する。その繰り返しです。走る選手のランクが変わっても、お客さんへの配当金は同じ。それに貢献すれば、また応援されます。負けたとしても励ましの声をかけてもらい、次はあそこで応援しているぞって。そんな風に言われると、やめられなくなりますよ」
「ストイックになり過ぎても、長く続かない」
50代になっても、毎日の練習を必死に取り組んだ。体力が低下していなかったと言えば、嘘になる。若いときと同じようなメニューをずっとこなせたわけではない。練習の量と質を考えて、頭を使いながら調整していた。
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「道具を使うスポーツですから、いろいろと考えて、工夫すれば、何とかなると思っていました。体力的に苦しくても、次の競走で自分がどんな成績を残せるのか、期待感のほうが大きくて、頑張れるんです。脚がきつくても、やっぱり楽しいし、最後の最後まで練習が嫌になることはなかったですね。そういう意味では素質があったのかもしれません」
リカバリーケアに気を使い、食事、睡眠などの管理を徹底しているプロアスリートも珍しくないが、神山は特別な生活を送っていなかった。栄養士も雇わず、食べたいものを食べていた。自宅に帰れば、一般的な家庭料理で心と腹を満たした。あくまで自然体。現役生活を36年続けてきた鉄人は口元をふっと緩め、達観したような表情を浮かべる。
「あまりストイックになり過ぎても、長く続かないと思います。たぶん、それがよくできて10年くらいかなと。2年、3年しか続かない人もいます。僕は人生の中に練習があり、試合がありました。生活サイクルの一環だった。むしろ、長持ちして稼げたのは、プロになる前に土台をしっかり築いたからです。建物と同じで完成してからは土台となる基礎は見えませんけど、安定したそれがないとすぐに崩れてしまいます」



