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張本美和が涙の訴え「早田ひなのタイムアウト」は本当に“不公平”だったのか? 兄・智和は「許せないと思います」日本人対決で起きた“違和感の論点”
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松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byJIJI PRESS
posted2025/08/14 17:00
8月9日、早田ひなとの試合後に複雑な胸中を明かした張本美和(17歳)
「不正行為だ」ファンの間で広がった波紋
だから、メディカルタイムアウトを巡り、波紋は広がった。中には「不正行為だ」という声もあるという。また卓球に限らず、タイムアウトは多くの場合、劣勢の側が試合の流れを変えたいときにとられるし、実際にそれで流れが変わることは珍しくない。意図的にあの場面でメディカルタイムアウトを要請したのでは、と見る向きもあるという。
ただ、一連の出来事には、ルールを逸脱した行為はない。当然、不正はない。早田は権利を行使したに過ぎない。張本も、「メディカルタイムアウトをとることに関しては私にも権利があるので、相手にも権利がありますし、意見はないです」と話している。
一方の早田はこう語っている。
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「(5月の)世界卓球が終わって、2カ月前ぐらいに少し尺骨神経を圧迫して。そこから今も左手の小指と薬指がしびれた状態でプレイをしているような感じです。(7月の)USスマッシュのときも試合中どんどん握力としびれが強くなってきて、逆転負けしてしまい後悔したので、今回は後悔しないように勇気を出して(メディカルタイムアウトを)とってみようと思って、その後の展開がどうなるか分からなかったですが、そこで自分が後悔しない選択をした結果こういった形になったので」
今回の騒動「本当の論点」とは?
不公平が生じたのは、ルール違反などではなく、ベンチコーチを置かないという慣習があったために、思いがけずエアポケットのような状況に陥ったからだと言える。誰かに矛先を向ける話でもない。今回の件から考えるとするなら、一つは、ベンチコーチは置かないというこれまでのあり方をどうすべきか、という点ではないか。
張本智和はこうも語っている。
「妹に言いたいことは一つだけ。己を強くするしかない。安い授業料だと思います。これは世界卓球、オリンピックではないので」
きっと張本美和は、この経験もいかしていくだろう。
