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「裏切られたという思いある」PL学園OB・ファンが号泣…“最後の12人が敗れた”試合「みんなに迷惑をかけた」高校野球の超名門が消えた日 

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柳川悠二

柳川悠二Yuji Yanagawa

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photograph byHideki Sugiyama

posted2025/08/18 06:01

「裏切られたという思いある」PL学園OB・ファンが号泣…“最後の12人が敗れた”試合「みんなに迷惑をかけた」高校野球の超名門が消えた日<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2016年夏の大阪大会を戦ったPL学園「最後の12人」

「高校生活で、最高の当たりでした」

 続く7回表。藤村の大きな弧を描く逆転2点本塁打がレフトスタンドに届く。

「ピッチングに関しては、多くの観衆の方に応援されて、気負ってしまったのかもしれない。不甲斐ないピッチングの分、なんとかバットで、と……」(藤村)

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 スタンドのボルテージは最高潮に達した。若いOBは絶叫し、老年のOBは往年の「逆転のPL」を想起させる逆転劇に、涙を流す者が続出した。

6対7…力尽きたPL学園

 PLのナインは打席に入る前や守備位置に就く際、首にぶらさげたアミュレット(お守り)を握りしめ、「いつも通りの力を出させてください」と神に祈る。相手にリードされていても逆転を信じて、最後まで戦い抜く。そういう深い信心が勝利を導くと信じられてきた。PLがあれほど注目を集める学校となったのは、信仰というベールに包まれた不可思議な強さも、大きな要因だった。誰も信じられない逆転劇、常識を打ち破る一打、一球。そういったものの背景に、信仰があるからこそ、相手校からすればPLの野球は脅威だった。

 しかし、野球の神様は最後の最後まで62期生に対してはそっぽを向いた。8回裏に逆転を許し、12人は力尽きた(6対7)。

 試合後、誰より涙を流していたのは、前日に負傷した河野だったかもしれない。

 松葉杖をつきながら、「最後の最後にケガしてほんまごめんな。ありがとう、ありがとう」と仲間に駆け寄り、報道陣に囲まれると「守備位置の変更とか、みんなに迷惑をかけてしまって」と声を落とした。

 PL学園の最後の主将となった梅田は、最後まで殊勝だった。「最高に悔いが残る一戦。でも、最高に誇れる一戦です」。

PL花火翌日に“本当の引退”

 毎年、PL教団は8月1日に教祖祭PL花火芸術(いわゆるPL花火大会)を開催する。かつての大阪の風物詩も野球部同様、縮小傾向にあり、日本一を誇った影はない。

 それでも夜空に大輪の花を咲かせ、一瞬ではかなく消えゆく花火を、最後の部員となった12人は2年半を過ごした寮の近くから眺めていた。既に練習は行っておらず、学校も夏休みに入っているものの、彼らには最後の大仕事が待っていた。

 甲子園に出場できなかったPLの野球部員は、花火大会の翌2日早朝に、会場のゴルフ場に残された花火の残骸を拾ったのち、ようやく解散となるのが伝統なのだ。野球部のOBである宮本慎也は、高校3年生の夏に一度だけ経験した。

「甲子園に出場することができたら、このガラ拾いは免除となる。PLの野球部の人間にとって、あのガラ拾いだけはやりたくない、最も屈辱的なことなんです」

 8月2日、12人の部員は横一列になってゴルフコースを歩き、花火の残骸を拾い集めていった。終了の瞬間、野球部は60年以上の歴史に幕を閉じた。

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