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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
寺地拳四朗まさかの陥落「行き止まりの道を行ったり来たり…」なぜ陣営に“迷い”が生まれた? 敗戦後、トレーナーの胸を打った寺地の“ある言葉”
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/08/13 17:03
判定結果がコールされた瞬間、うつむいて拍手を送る寺地拳四朗と喜びを爆発させるリカルド・サンドバル
「迷いが生まれるような準備期間にしてしまった」
後手に回り、迷い続けた寺地と、練り上げた作戦を完遂したサンドバル。ポイントはジャッジ1人が114-113で寺地を支持したものの、残り2人は115-112、117-110でサンドバル。3人目のジャッジはダウンを奪った5回とその後の6回しか寺地につけていなかった。
「拳四朗のボクシングは相手を動かして、そのスキを突くというボクシング。タイミング変えたり、角度変えたり、手数増やしたりして、一瞬のスキを突く。相手を動かして、動かして、自分のペースにする。だから一瞬のスキができない相手だと攻めあぐねる。ほんとに今回は難しかったです」
相手のほうが一枚上手だったのは事実だ。ではどうすればベストだったのか。簡単に答えは出るはずもないが、トレーナーとして、その一つは準備段階にあったのではないかと考えている。
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「矢吹(正道)くんが拳四朗との2戦目のあとに言っていた言葉を思い出しました。1戦目で足を使った拳四朗が2戦目はバッと前に出てきた。そのとき迷ったと。想定してない戦い方をされて、練習してきてないことをやるべきかと。練習してきたことを貫くか、それとも打ち合うのか、迷っているうちに倒れてしまったと」
矢吹は2021年9月、不利予想を覆して寺地を10回でストップした。翌年3月の再戦では、寺地が第1戦とはスタイルを変え、スタートからグイグイ攻めて圧巻の3回KO勝ちを収めた。
「拳四朗もあのときの矢吹くんと似ていて、今回はもらわないボクシングを練習してきて、もらう、打ち合う想定での練習をしていなかった。ワンツーがダメだったときの次の手の準備が不十分だった。そこで迷いも生まれてしまったのかなと。試合で迷いが生まれるような準備期間にしてしまった。そこをすごく反省しています」
じつは“苦戦続き”だった寺地拳四朗
一抹の不安は他にもあった。近年の寺地は激闘続きで、その分ファンの受けもよかったのだが、激闘はイコール苦戦ということでもあり、決してほめられた結果ではなかったのだ。前回の最終回にTKO勝ちした阿久井戦は、11回まで阿久井にリードを許していた。昨年1月のカルロス・カニサレス(ベネズエラ=現WBC世界ライトフライ級王者)戦では、終盤11、12回に足を使ってポイントを上げ、辛くも2-0判定で逃げ切っている。まさに薄氷の勝利だったのである。

