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「親父は相当怖かったですよ」甲子園4回優勝、奇跡の公立校…箕島高校の名将・尾藤公とは何者だったのか? 息子が証言「態度が悪い選手シバいてた」 

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曹宇鉉

曹宇鉉Uhyon Cho

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posted2025/08/18 11:23

「親父は相当怖かったですよ」甲子園4回優勝、奇跡の公立校…箕島高校の名将・尾藤公とは何者だったのか? 息子が証言「態度が悪い選手シバいてた」<Number Web> photograph by KYODO

箕島高校の名将・尾藤公(びとう・ただし)。春夏合わせて甲子園出場14回、優勝4回

 それでも、甲子園出場後の3年間は毎年30人ほどが入部した。志望者全員が入学できたわけではなく「断って、断って」の数字だったという。少なくとも10年前まで、箕島の野球部は県内で人気だったのだ。

 2014年には秋季和歌山大会で優勝し、近畿大会でベスト8に入る。センバツ出場は逃したものの、和歌山勢ではトップの成績だった。さらに2016年の夏は県大会決勝に進出。市立和歌山に0対2とリードされた9回表、ノーアウト一・二塁のチャンスで一塁線を抜いた打球が審判に跳ね返ってアウトになる不運もあり、甲子園出場を逃した。

「OBに死ぬほど怒られました」

 父の公や現監督の北畑清誠とは異なり、強はあまり怒らない監督だった。箕島の輝かしい歴史を伝え、選手に名門であることを意識させることもしなかった。「僕と北畑の間くらいでちょうどええのにな、とOBには言われてるみたいですね」と強は笑った。

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「僕が高校生のとき、春夏連覇からたかだか7年くらいしか経ってなくても『いつまで言うとんねん』と思いましたから。生まれてもいない子たちが四十何年前の星稜戦とか、伝統とか歴史とか言われても、実感わかないでしょ。知らんがなと。頭ごなしにうちは伝統校や、自覚あんのか、って言っても届きませんよ。別になんのために野球やってもええと思います。健康のためでも、親に言われたからでも」

 そしてなかば呆れたような口調で、辛辣な言葉を繰り出した。

「OB含めて関係者が『公立で春夏連覇してるのはうちだけや』とものすごく言うんですよ。『公立で』って言うてる時点で言い訳してるのと一緒やんか。智弁にコールドで負けました、公立やからね、って恥ずかしくないですか? 公立やったら5点もらえんのかと。人に言われるのはええけど、自分らで言うたらあかんやろ。一度、うちなんて70年代にぱっと出てきて、ぱっと散った“なんちゃって伝統校”やん、と言ったら『輝け甲子園の星』に載った。なんちゅうこと言うてんねん、とOBに死ぬほど怒られました。いやいや、実際そうやんけ、と」

 単なる皮肉や韜晦ではなかった。尾藤強は「本当のこと」を話そうとしている。手のひらがじんわりと汗ばむのを感じた。

<続く>

#5に続く
「正直、野球部が嫌いな校長もおったし…」高校野球“消えた名門”箕島高校…最後に甲子園に出た前監督の告白「箕島はこうして勝てなくなった」
この連載の一覧を見る(#1〜5)

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