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吉田大輝は号泣…その父が記者に明かした“進路の本音”「ドラフト1位報道に乗せられて…」じつは金足農の兄・吉田輝星も大学志望から一転した7年前
posted2025/08/07 11:08
沖縄尚学に敗れ、初戦で甲子園を去った金足農・吉田大輝(3年生)
text by

中村計Kei Nakamura
photograph by
JIJI PRESS
「話してました? 話してました?」
金足農業のエースである吉田大輝の父、正樹は、そう言って、実に嬉しそうな笑みを浮かべた。
「本人はプロ入りはまだ早いと言ってましたが」と伝えたときのことである。兄の吉田輝星(オリックス)が2018年に「カナノウ旋風」を巻き起こしたときも含めて、正樹には何度か話を聞かせてもらったことがある。正樹も金農の野球部OBで、投手だった。色白で、彫りの深い顔立ちは、輝星にそっくりである。正樹は感情表現も言葉もいつも控え目で、あんなにキラキラとした笑顔を見たのは初めてのことだった。
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その笑顔を見て、やや反省した。大輝の言葉をもう少し正確に伝えるべきだったかな、と。
「いずれは兄と同じ舞台でやりたい」
吉田大輝は沖縄尚学に0−1で敗戦したあと「プロ注目」と言われる選手であれば誰もが経験する質問を受けた。つまり、進路に関する質問である。
「次はお兄さんと一緒の舞台でやりたいか」という質問が飛ぶと、目を潤ませていた大輝はこう言葉を絞り出した。
「まあ、今の実力では全然まだまだ追いつかないと思うので、いずれは兄と同じ舞台でやりたいと思ってるんですけど……そう思ってます」
私はこれを聞き、「プロはまだ早い」と言っていると解釈したのだ。大きく間違ってはいないと思うのだが、そこまではっきり断言しているわけでもない。
正樹の安堵したような表情を見て、今、吉田大輝とその周囲でこんな構図が生まれているだろうことは容易に想像することができた。今すぐにでもプロに行きたい血気盛んな18歳と、それを時期尚早だとなだめる大人たち。甲子園に出場した選手の周辺では、ありがちな話である。
吉田輝星のプロ志望も急転直下だった
実は正樹は兄・輝星のときも進路で苦労させられている。輝星はもともと東北のある大学に進学する予定だったのだが、甲子園で準優勝したことで一転、プロ志望に翻意した。正樹は当時、こんな話をしていた。
「私は輝星がプロで飯を食っていけるとは思っていなかったので。体も小さいですし。報道で1位指名もあるみたいな書かれ方をして、ちょっと乗せられた部分もあったと思うんです。本人がプロに行きたいのは周りも知っていたんですけど、話題にならなければあきらめて大学に行ってたんじゃないですかね。そこに火を付けちゃったのが報道だったのかなという気はしましたね」
吉田大輝も吉田輝星の弟ということで話題が先行している感は否めない。正樹はそのことも危惧しているのだろう。

