甲子園の風BACK NUMBER
「学力最下位のヤンキー校」から激変…“甲子園から消えた名門公立校”沖縄水産に復活の兆し「文武両道で何が悪い。バカにするな」熱血監督たちの挑戦
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松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byTakarin Matsunaga
posted2025/08/06 11:08
沖縄水産野球部元監督の新垣隆夫。荒廃していた同校の立て直しに尽力した
「沖水の一番苦しかった時期に隆夫先生が身を粉にして、マイナス200からマイナス20くらいまで立て直してくれました。高野連の仕事をやりながら自校の野球部を見るのは並大抵のことではありません。甲子園に出る監督ばかりが優秀なんじゃないんです。隆夫先生のように高野連の仕事もやり、生徒指導、そして野球部の監督をやる方も陽の目を浴びてほしいと思っています」
甲子園出場こそかなわなかったが、「荒れていた沖縄水産の立て直しは隆夫先生なくしては語れない」と断言する上原もまた、立派な指導者だった。
「学力最下位の荒んだヤンキー校」から人気校に
2024年度からは上原忠に代わり、33歳の呉屋大輔が監督に就任。新生・沖水を築き上げようと心血を注いでいる。今年の夏は3回戦で強豪・興南と対戦。5回までは互角に戦っていたが、6回にひとつのエラーから4点を奪われ、5対0で敗れた。3年生が引退した野球部には、1、2年生だけで41名が所属している。
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「もちろん古豪復活も大事ですが、私自身がそこに囚われすぎずに、今のチームをどうベストな状態に持っていくか、どう応援される選手を育てるかを考えています。厳しさを植え付けるため時には強く叱りますが、その選手の後ろに親がいると思って叱ります。大切なのは人間力を磨いて野球をすること。日頃の取り組みを重視して、しっかり心と体を整えることができれば、軌道にも乗りやすいと思いますから。ただ『甲子園に行くぞ』ではなく、どういう形で、どういう人間として、どういう能力を持って『甲子園に行くぞ』と言っているのか。その底上げをしないと何も始まらない。選手たちとは、そのためにどうするか、という話をしています」
現在、沖縄県の高校野球は沖縄尚学、エナジックの両横綱に、大関・興南という図式ができつつある。沖縄水産はそれらを追う3番手グループといった立ち位置だ。しかしながら入試の総合点は年々上がっており、倍率は県内でも上位に入る人気校となっている。男女比は6対4ほどになり、本分である水産業についての専門教育の質も高い。定員割れが当たり前だった「学力最下位の荒んだヤンキー校」の姿は、もうどこにもない。


