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マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
「育成枠で信用できるの、ソフトバンクだけ」…高校野球の逸材がなぜ続々“プロ回避”? スカウトの胸中は「現代なら…育成でもプロ入りするべき」
text by

安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byBUNGEISHUNJU
posted2025/07/30 11:08
「高卒育成の星」として例に挙がることが多い千賀滉大(ソフトバンク→メッツ)。一方で、こうしたケースは“奇跡”とも言われることが多かった
昨年夏の愛知県予選で偶然その投球を見て、しなやかでスピード抜群の腕の振りに目を奪われた高蔵寺高・芹澤大地投手(182cm72kg・左投左打)。
こういう時代だから、すぐにその存在は知れ渡り、アニメの中から飛び出したようなそのシルエットの話題性も伴って、この春の「150キロ」で実力の裏付けもとれ、一時は「ドラフト1位候補」の活字まで躍るほどだった。
遊撃手としてのフィールディングなら、すでにプロ級というスカウトのお墨付きまで得ていた天理高・赤埴幸輝内野手(181cm74kg・右投左打)も、「社会人」という進路を選択した。
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共に抜きん出た長所を持ちながら、社会人球界というアマチュア最高峰のレベルでもまれながら、足りない部分の充填を図ろうとしているのだろう。
有望選手たちの「進学を考えています」という発言は、ほとんどイコールで、「おかげさまで、特定の大学に決まりました」という意味として解釈してよいだろう。
早ければ、2年生の秋ごろから大学の練習に参加して「内々定」ぐらいの返事を大学からいただいている選手、大学から「どうかウチへ」と望まれて「ではお願いします」と了解が済んでいる選手……3年夏のこの時期になると、強豪大学、有名大学の「推薦枠」はあらかた埋まっているのが実情になっている。
有名球児が「進学」とわかると、スカウトたちはサッと手を引く。制度になっているプロ志望届を出さない選手を追いかけても、意味がないからだ。
注目株が全員進学…「2年生を見に来た」スカウトも
この夏のある甲子園予選の大会。ある球場のネット裏に、スカウトがポツンと一人だけ。投げている投手は確かに「プロ注目」だったが、早々に進学を表明していた。
「お目当てはこのピッチャーですか?」とマウンド上を指さすと、笑いながら首を振って、その向こうで守っている遊撃手を指さした。
「担当地区のいいのが、み~んな進学だから、しょうがなくて2年生を見に来ているんですよ」
「み~んな」と伸ばしたもの言いが耳に残った。魚がいないとわかっていて、池に糸を垂れる。誰にぶつけようもないやりきれなさが滲んでいるようだった。

