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「タナベ! よく投げてるね!」「(タバタですけど)頑張ります!」長嶋茂雄監督が“最後に獲得した男”田畑一也のトレード人生「長嶋さんは神様ですから」
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佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKazuya Tabata
posted2025/07/12 11:02
1996年、ヤクルトに移籍した田畑は憧れの長嶋監督とツーショット(本人提供)。後に長嶋巨人にトレードされることになろうとは
最初はリリーフでの起用だったが、長嶋流のサプライズで先発に抜擢されたこともあった。当時は予告先発ではなかったため、登板予定は長嶋監督と、ピッチングコーチと田畑しか知らない機密事項。7月8日、横浜戦の前日にミーティングでそれが発表されると、チームメートからはどよめきが起きたという。
「誰も俺が先発だとは思っていなくて野手からは『うわぁ、完全に騙していたね!』と言われました。でも逆に僕も驚きましたよ。ジャイアンツってやっぱりすげえ、誰からも情報が漏れないんだな、って。他のチームは大体みんなペラペラしゃべっちゃうから、何となくこの試合の先発誰とか伝わっているものですけどね」
「タナベ! 最近よく投げてるね!」
4つめのユニフォームに袖を通した田畑は、新天地で再び花を咲かせる。ジャイアンツで主にリリーフとしてこの年29試合に登板。連投に次ぐ連投も厭わずにフル回転した。
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「よく投げさせてもらいました。最大では5連投したこともあったけれど、出番があることが本当に嬉しかった。ある時、東京ドームのトイレでたまたま長嶋監督に会ったらいきなり言われたんですよ。『おう、タナベ! 最近よく投げてるね』って。いつの間にかタバタがタナベになってた(笑)。何度も『なあ、タナベ!』って……俺のことだろうなと思って『がんばります!』って答えましたけどね」
長嶋監督はこの年限りで退任。田畑は長嶋茂雄が指揮官として最後に獲得した選手となった。
「どうだ田畑コーチ?」
ちなみに“タナベ”のエピソードには続きがある。右肩痛を抱えながら奮闘していた田畑は、翌2002年限りで現役引退。巨人のスコアラーを9年務めたのち、2012年からは投手コーチとして指導にあたった。一軍投手コーチ時代の2014年、宮崎キャンプで長嶋茂雄・終身名誉監督と顔を合わせた。ミスターは脳梗塞からリハビリを続けている状態だったが、ニコリと笑顔を向け、「どうだ田畑コーチ、今年の投手陣は?」と声をかけてくれたのだ。

