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獅子の遺伝子BACK NUMBER
西武・今井達也「不安を抱きながらいつも投げていた」突然崩れる右腕→球界エースに…“脱力投法”進化の真実「時間を無駄にしたくない」チームを背負う思い
text by

市川忍Shinobu Ichikawa
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/07/22 11:00
名門復活を牽引する西武のエース・今井達也
「脱力投法」の真実
今シーズン、今井が目指しているのは無駄がない、効率的なフォームで投げることだ。それを“脱力投法”と名付けるメディアもある。
「力を入れていないわけじゃないんです。もちろん力いっぱい投げているんですが、体の軸などの力を入れなきゃいけない部位にちゃんと力が入っていて、逆に力を抜かなきゃいけないところは、しっかり抜けている。第三者から見て“力が入っているように見えない”というのが正しい解釈かもしれません。もちろん毎イニング、0点でベンチに帰るのがピッチャーの仕事です。それに三振が欲しいところで取れるピッチャーというのは、自分以外の人を見ていてもやはりピッチャーとしての能力が高いなと思うので、そういうピッチャーを目指していますね」
ゆっくりではあるが、力強い口調で語った。
何が今井を変えたのか?
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2017年、ドラフト1位指名で入団したときから“いずれはライオンズのエースに”と期待をかけられてきた今井だったが、以前は四球が多く「フォアボールでランナーを出すのは想定内」と評価されるピッチャーだった。マウンドでの表情もどこか自信なさげに見えた。いったい何が今井を変えたのか。
「6年目のシーズン、開幕前最後のオープン戦登板のときに、右の内転筋を肉離れしたんですよ。その影響もあって開幕は二軍スタートでした。治ってファームの試合で投げるようになって『この試合で大丈夫だったら次は一軍』というときに今度は左足首の捻挫。一軍での登板が見送りになりました。その故障のリハビリ中に今、自主トレでお世話になっている鴻江寿治さん(鴻江スポーツアカデミー代表)に出会いまして、自分の体を見てもらったことが大きかったと思います。あの出会いがなかったら今の僕はいませんでした」
鴻江トレーナーのもとで自分の体との向き合い方を学んだ。
「当時は、僕も話が理解できずに『なんのこっちゃ』という感じだったんですけど、指導をしてもらった直後から食事の量がすごく増えて、ウエート・トレーニングでは重い重量を軽く上げられるようになった。自分の体の変化に驚いたんです。この先生は只者じゃないなって」
「不安を抱きながらいつも投げていた」
その後、毎オフ、自主トレーニングで施設を訪れ理解を深めているという。
「プロ入り5年目くらいまでは、もちろん力いっぱい投げたらスピードは出るんですけど、狙ったところに行くのかなという不安を抱きながらいつも投げていました。スピードを維持したまま『狙った場所に投げられるか?』と聞かれたら、投げられなかった。それで仕方なくスピードを制御して『とにかくキャッチャーが構えたところに投げないといけない』と探り探り投げていた記憶があります」


