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「10年後にまた会いましょう」エル・デスペラードと葛西純「生きるためのデスマッチ」はなぜ感動を呼んだのか? 試合後、カメラマンが見た“ある光景”
text by

原壮史Masashi Hara
photograph byMasashi Hara
posted2025/06/26 17:25
王者エル・デスペラードに葛西純が挑んだIWGPジュニアヘビー級タイトルマッチ。6月24日、後楽園ホール
「まだ終わってほしくない…」ファンの思い
選手入場の時点で会場の熱気はすさまじいものになっていたが、思わぬサプライズがそれをさらに高めることになった。棚橋弘至社長がリングに上がり、近年では見る機会が無くなっていた選手権宣言を行ったのだ。新日本の歴史が動いたことを実感した後楽園ホールは、予め選手権であることはわかっていたにもかかわらずザワついた。
腕の取り合いで慎重に始まった試合に見入った観客を葛西が煽ると、展開も加速していく。有刺鉄線ボード、蛍光灯、場外戦、ガラスボード、椅子と蛍光灯の束……。大きなラダーまで登場した。
竹串を奪われ、ラダー上から場外に落とされてしまった葛西だが、試合はまだまだ終わらなかった。
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ピンチェ・ロコとリバースタイガードライバーの応酬でも決着はつかず、ラダーからのパールハーバースプラッシュでもカウントは2。
おびただしい量の血にまみれた両者。試合が決着へ向かっているのは明らかだったが、「まだ終わってほしくない」という思いがあった。会場を埋めたファンが数える「ワン! ツー!」の声も、カウント3ではなかったことに嬉しそうだった。
それでも、試合はついに終わってしまう。互いに自分の頭で蛍光灯を割って最後のスイッチを入れ、全ての感情をこめたような拳を叩きこみ合うと、最後はデスペラードが垂直落下式リバースタイガードライバーからピンチェ・ロコで勝利。
2022年の代々木で「死んでもいい覚悟」を捨て、そこから強くなったエル・デスペラードは、葛西純との異例のIWGPジュニア王座戦を実現させ、防衛に成功した。
葛西純が手渡した「10年後の招待状」
ラストシングルを終えたデスペラードは自身の歩みを振り返り、自分をここまで強くさせてくれた葛西へ、涙ながらに感謝を伝えた。
それは葛西も同じだった。「葛西純の全盛期は10年後」。そう公言している男が、マイクを握って言葉を絞り出した。
「お前みたいな強くて男気のある男になりたいと思って、今日よりも明日強くなりたいと思って、お前と出会えたから、今日ここまで来られました」
憧れ合う者同士が強さの原動力になり、歴史を作り、動かし、狂わせるほどになった。感動的なラストだったが、そんな2人のシングルはもう実現しない。会場には寂しさが満ちていた。
「明日から心の中にぽっかり穴が開いて、強くなる気も失せて……。どうやって生きていけばいいんだよ」
葛西の本音は、全員の心を代弁していた。




