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「将棋の才能がないとは…藤井聡太さんや羽生善治先生と比べてなんです」永瀬拓矢がホンネで語った「藤井さんを上回る」ための試行錯誤
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa
posted2025/06/22 11:03
永瀬拓矢は王将戦、名人戦に続き王位戦で絶対王者・藤井聡太に挑むことになる
2023年秋の王座戦五番勝負。藤井に八冠を達成されたあの時、永瀬は「藤井さんと技術的には大きな差はないと思う」と語っていた。あれからさらに藤井との対戦を重ねたが、今もその意識は変わらないだろうか。
「今のほうが明らかに藤井さんのことを理解しています。当時、自分は『BLEACH』でいえば主人公の父親だったかもしれません。藤井さんと私は読みを重視するタイプですし、読みの内容も合いやすい。だから藤井さんが私の上位互換になりやすいのですが、そうなってしまったらまずい。こちらが飛躍するか、特殊能力を身につけるしか対策がないのかもしれません」
自分の理想は藤井さんを上回ることです
永瀬は私から視線を外して、口をつぐんだ。しばらく沈黙が訪れてから、再び語り始めた。
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「終盤は藤井さんがかなり正確ですからね。終盤で私よりも2、3手多く読んでいて、その2、3手で詰みが発生することもある。局面が激しくなった時に差がついてしまうのはそこなんですよ。藤井さんは読むスピードが凄まじく速いからなあ。自分もだいぶ速くなっていると思うんだけど」
そう言って永瀬はため息をついた。藤井のことがわかればわかるほど、その巨大さと強さが確かな実感となってのしかかってくる。自分も強くなっているのに。
それでも永瀬はあきらめていない。
「自分の理想は藤井さんを上回ることです。実力的に上回れば、勝つことになる。勝つことを目指すのと、上回ろうとするのでは全然アプローチが違うんです」
藤井さんを上回りたいんです。そのためには…
それでは、例えば今まで藤井とタイトル戦で相まみえた何人かの棋士が採ってきた、藤井の経験値が浅くてバランスを取りづらい局面に持ち込む手法はどうか。
「それは、勝つためのアプローチなんです」と永瀬は力を込めた。
「確かに勝つ可能性は高まるかもしれない。でも、そのアプローチがうまくいかなかった場合、何も残らないんですよ。定跡の隅っこをつついただけで、根本的な棋力は上がっていない。だって私、藤井さんと最初に戦った棋聖戦(2022年)と王座戦(23年、24年)では定跡で倒しに行ったんですけど、結果も出なかったし、あとには何も残らなかったですもん。今も結果は出ていないけれど、少なくとも自分が強くなっている実感はありますから」
永瀬は勝ちを目指すアプローチを否定しているわけではない。

