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「右腕を吊り、腫れた顔を隠して…」なぜ西田凌佑はそれでも会見に現れたのか? 中谷潤人と死闘の1日後…記者が見た“異例の敗者”のプライド
posted2025/06/11 17:04
満身創痍の状態ながら、一夜明け会見で率直な思いを述べた西田凌佑
text by

渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
8日に東京・有明コロシアムで行われたWBC・IBFバンタム級統一戦は、WBC王者の中谷潤人(M.T)が6回終了TKOでIBF王者の西田凌佑(六島)を下した。中谷が前評判通りの強さを発揮する一方で、見せ場を作った西田にも称賛の声が惜しみなく送られている。西田サイドから熱く燃えた統一戦を振り返ってみたい。
◆◆◆
西田にとっては悔しい敗戦だった。初回に爆発した中谷の猛攻をしのぎ、3、4回はポイントを奪って追い上げ態勢に入った。ところが偶然のバッティングで腫れた右目が視界をふさぎ、右肩を脱臼するというアクシデントにも見舞われて5回に失速。陣営は6回終了時に棄権を決断した。
普段はあまり自己主張をしない西田が…
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もともと西田の実力は関係者の間で高く評価されていたが、中谷に比べて知名度の低さは否めなかった。中谷はリングサイドで試合を見守ったスーパースター、井上尚弥(大橋)とのメガファイトが期待される「主役」であり、西田は中谷を引き立てる「脇役」という立場だった。
だからこそと言うべきか、西田は中谷との統一戦を強く希望した。普段はあまり自己主張をしない西田が「ぜひ中谷選手とやりたい」と訴えたのだ。チャンピオンなんだからあえてリスクを冒す必要はないのではないか。そうした意見がなかったわけではない。それでも西田の「自分より強いと言われている選手と戦いたい」という真っすぐな気持ちが揺らぐことはなかったのである。
こうして迎えたのが今回の一戦だった。西田の心意気が伝わっていたのか、西田が入場すると想像以上の大歓声が沸き起こった。六島ジムの枝川孝会長が「あれには驚いた。中谷選手以上の歓声だったんとちゃう?」と感じたのは大げさではない。さらに試合を終え、退場する際には、コロシアムにより温かい拍手が鳴り響いた。右肩に氷嚢を乗せた西田は控室に戻ると、記者会見をキャンセルして病院に直行した。

