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「右腕を吊り、腫れた顔を隠して…」なぜ西田凌佑はそれでも会見に現れたのか? 中谷潤人と死闘の1日後…記者が見た“異例の敗者”のプライド 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/06/11 17:04

「右腕を吊り、腫れた顔を隠して…」なぜ西田凌佑はそれでも会見に現れたのか? 中谷潤人と死闘の1日後…記者が見た“異例の敗者”のプライド<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

満身創痍の状態ながら、一夜明け会見で率直な思いを述べた西田凌佑

痛々しい姿で…なぜそれでも西田は会見に現れたのか?

 この夜、西田はファンの気持ちをしっかりと受け止めた。それが行動となって表れたのが試合翌日の記者会見だった。「一夜明け会見」と称される記者会見は通常、勝者のために開かれる。ただ、今回は前夜に会見をしていなかったこともあり、枝川会長が一人で出席してメディアに状況を説明しようと考えていた。西田は出なくてもいい。そう考えていた枝川会長が本人に話をすると「出ます」という答えが返ってきた。

「やっぱり昨日、会場で思ったよりも自分の応援が多いと感じましたし、こんなにも応援してくれる人がいますし、心配してくれる人もいるので、しっかり自分の口で話したいと思いました」

 西田は会見に出席した理由をこのように説明した。中谷がベルトを2本掲げて会見を終えた直後、西田は同じ部屋にうつむき加減で入ってきた。負傷した右腕を三角巾でつるし、腫れた顔をサングラスで隠す姿が痛々しく映る。それでも西田は律儀に頭を下げて中谷と握手を交わし、ツーショット写真に収まり、記者会見が始まると真っ先に応援してくれたファンに感謝の言葉を述べた。

一夜明け会見で西田が“プライドをのぞかせた”ある場面

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 会見が始まると、西田は記者の質問一つ一つにていねいに答えた。いつもの西田のスタイルだ。中谷がスタートから荒々しく攻めてきたことに関しては「ちょっと飲まれた」と正直に認めた。それでも下がらず、「前に出て戦う」という戦前に描いた中谷攻略の作戦を実行に移した。打ち終わりに素早く反応し、得意の左ボディや顔面への左カウンターを決めた3、4回の追い上げに話が及ぶと「正直、手ごたえはあった」とプライドをのぞかせた。

 右肩がいつ、どんな状況で外れてしまったのかは本人も分からず「2ラウンドくらいは痛い状態だったので、たぶん3回か4回だと思う」と語り、右目は終盤ほとんど見えなくなっていたとも明かした。それでも負傷やアクシデントに関する恨み節は最後まで口にしなかった。試合を総括する一言は「完敗です」だった。

 悔しい敗北を喫したとはいえ、西田がファンのハートをつかんだのは間違いない。Xのフォロワーは2000人台から7000人台に急増し、六島ジムの公式SNSにもファンから称賛のコメントが続々と集まったという。

【次ページ】 明言を避けた進退「もう少しがんばりたい気持ちも…」

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