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那須川天心26歳が認めた「ないと思うんですよ、パンチ力が…」世界6位に圧勝後、なぜ“ネガティブ発言”?「じつは神童じゃない」異例宣言の“真意”
posted2025/06/11 17:45

鋭い右カウンターを決める那須川天心。世界前哨戦でWBA6位のビクトル・サンティリャンを圧倒したものの、自己採点は厳しかった
text by

布施鋼治Koji Fuse
photograph by
Susumu Nagao
大差の判定でWBA世界バンタム級6位のビクトル・サンティリャン(ドミニカ共和国)を下したにもかかわらず、試合後の那須川天心(帝拳)にいつもの「いけるっしょ」的なポジティブさは皆無だった。その代わり、神妙な面持ちでこんなことを呟いた。
「もう一歩先の景色を見たかった」
「神童とか言われてきたけど…そうじゃないぜって」
歴史に残る激闘となった中谷潤人(M.T)と西田凌佑(六島)のWBC・IBF世界バンタム級王座統一戦のセミファイナルとして組まれた『Prime Video Boxing 13』(6月8日・有明コロシアム)のバンタム級10回戦。ほぼフルマークの圧勝で世界前哨戦というミッションをクリアした天心の表情は、なぜ冴えなかったのか? その理由は試合後に発した次の一言に集約されていた。
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「ちょっと自分を破壊するしかないのかと思いました。もっとロックな男になりたい」
単純にKOで勝ちたかったという話ではない。練習で積み重ねてきたものを、実戦の場でもっと出したかったということだ。
決戦翌日の一夜明け会見に同席した帝拳プロモーションの浜田剛史代表は「対戦相手の上半身が柔らかくてやりにくさもあった」と前置きしつつ、問題の本質を口にした。
「那須川天心自身のパンチに力がなかった。スパーリングでは『このパンチが試合で出れば、ダウンをとれる』というものがあるけど、昨日はそれが出なかった」
アスリートならば、誰しも練習と実戦の違いに悩まされる。キックボクサー時代から“神童”と言われ、特別視されていた天心とて人の子。一夜明け会見では「昔から天才だったり神童とか言われてきたけど、自分ではずっとそう思っていなかった」と打ち明けた。
「いまは言われてきたことを『そうじゃないぜ』って。自分で自分を回収しているような感覚に至っていますね」
キックボクサー時代、天心にとってKO勝ちやダウンを奪うことは当たり前のことだった。キャリアの中では2度も7連続KOを記録しており、ラストファイトとなった武尊との大一番でも1ラウンドにカウンターの左フックでダウンを奪っている。
しかし、ボクシングとキックボクシングは似て非なる競技。キックの方は蹴りがあるからこそパンチが活きるという側面があり、拳以外の攻撃も認められることでダイナミズムが生まれやすい。一方、ボクシングは攻撃が2つの拳に制限されるがゆえに、より繊細で正確な攻撃が求められる。