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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「中谷潤人が有利」は本当か? 格上に全勝の西田凌佑“じつは驚異的”な経歴「どう見ても強そうじゃないやん。でも試合だとやりよる」会長の証言
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曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/05/30 11:08

6月8日、東京・有明コロシアムでバンタム王座統一戦に挑む中谷潤人(左)と西田凌佑
比嘉の突進が鈍かったわけではない。それでも西田の技術と覚悟が上回った。サークリングしながらジャブを突いて中間距離の戦いを制し、比嘉が得意とする接近戦でも互角以上に渡り合った。終始ペースを握ったまま12ラウンドを戦い抜き、大差の判定勝ち。プロ4戦目にしてタイトルを獲得し、一躍バンタム級のホープとなった。
重要な試合で戦う相手は格上ばかり。だが、負けない。エマヌエル・ロドリゲスに挑戦したIBF世界バンタム級タイトルマッチもそうだった。2019年のWBSS準決勝で井上尚弥に2ラウンドTKO負けを喫したロドリゲスだが、大橋ジムの大橋秀行会長も「井上のキャリアで一番警戒していた相手」と評した実力者だ。井上戦後はレイマート・ガバリョに“疑惑の判定”で敗れたものの、再起してIBF王者に返り咲いた。スピード、パワー、テクニック。どれをとっても一級品で、キャリアの浅い西田にとって高い壁になると思われていた。
4ラウンド、西田の左ボディアッパーが突き刺さり、ロドリゲスが苦悶の表情を浮かべてキャンバスにヒザをつく。ノーモーションの右に活路を見出し、盛り返そうとするロドリゲスだったが、7ラウンド以降は西田が距離を潰して執拗にボディを攻める。この試合のために、武市トレーナーと徹底的に磨き上げてきた至近距離での打ち合い。右目を腫らしながら、ロドリゲスに傾きかけた流れをふたたび引き寄せた。判定は3-0。プロ9戦目でIBFのベルトを巻いた。
変幻自在のスタイル「相手の良さを消す」
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ボクサー・西田凌佑の強みとは何か。本人に問いかけると、「うーん……なんですかね」と答えに詰まった。言葉を選んでいる気配があった。
「とにかく勝つためのボクシング、勝つためのスタイルを目指しているので。接近戦に振り切ったり、足を使って戦ったりではなくて、なんでもできるのが理想です。相手の戦い方によって自分を変えられる。相手の良さを消す。それが自分の強みかなと最近は思います」
フィジカルと技術が高いレベルで融合したボクサーであることは間違いない。それでも、あえて尖った部分を持たない。言い換えれば、自分の武器を過信しない。勝ち方ではなく、勝つことにすべての神経を注ぐ。そこに武市トレーナーの戦略と「負けたらやめる」という覚悟が加わり、西田という特異な世界王者が生まれた。