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「努力は実る、という言葉は好きじゃなくて…」中学で全国制覇→重圧で長期スランプに→29歳で日本歴代3位…元“天才少女ハードラー”の「復活秘話」 

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加藤秀彬(朝日新聞)

加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato

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posted2025/05/30 06:01

「努力は実る、という言葉は好きじゃなくて…」中学で全国制覇→重圧で長期スランプに→29歳で日本歴代3位…元“天才少女ハードラー”の「復活秘話」<Number Web> photograph by AFLO

ゴールデングランプリの女子100mハードルで29歳ながら日本歴代3位の好記録をマークした中島ひとみ(長谷川体育施設)。高校以来の長い雌伏の時を超えて復活

 大学時代の最高成績は、全日本インカレでの入賞。客観的には十分な成績でも、中学や高校時代の実績を考えれば、もの足りなかった。

 高校以降、同じ1995年生まれの選手たちの活躍を横目で見てきた。

 現100mハードル日本記録保持者の福部真子はインターハイを3連覇した。男子100mの桐生祥秀は高校3年で10秒01をマークし、大学4年で日本人初の9秒台を出した。

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「同世代のスターを見ても、もう自分はこういう場所にいられないと思いました。勝ちたいという気持ちもなくなって、ライバルとして見ることはなかったです。お客さんかのような気持ちで、本当にすごいなと思うだけでした」

 社会人でも競技は続けた。自己ベストは毎年更新した。でも、「勝ちたい」とは思えなかった。

転機となった2022年の日本選手権

 転機は2022年。順調に自己記録を伸ばした成果もあり、日本選手権で初めて決勝に進んだ。4位入賞。遠ざかっていたトップレベルの勝負に、また顔を出せるようになっていた。

「『勝ちたい』ほど強い気持ちではないけど、『勝ってみたい』とぼんやり思い始めました」

 この頃、2019年に陸上に復帰した寺田明日香を筆頭に、女子ハードルのレベルが急激に上がっていた。22年世界選手権オレゴン大会では、福部が12秒82の日本記録を樹立した。

 本当に勝負をするなら、日本代表になるなら、12秒台が必須の時代だ。一方、中島の当時の自己記録は13秒13だった。

「12秒台を出すまでには、まだ何段階も下にいることはわかっていて。それがまたつらかったです」

 以前のように高い目標をかかげたら、失敗したときの反動が大きい。だから、「代表になる方法を逆算して、少しずつ目標をクリアするように切り替えました」

 まずは13秒0台。それから12秒台に突入。そして、代表選考の勝負をする。

 そう決意して2年が経ち、24年9月の全日本実業団選手権を迎えた。

【次ページ】 初の海外遠征も…戻ってきた「勝利の渇望」

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