- #1
- #2
オリンピックPRESSBACK NUMBER
「努力は実る、という言葉は好きじゃなくて…」中学で全国制覇→重圧で長期スランプに→29歳で日本歴代3位…元“天才少女ハードラー”の「復活秘話」
text by

加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byAFLO
posted2025/05/30 06:01

ゴールデングランプリの女子100mハードルで29歳ながら日本歴代3位の好記録をマークした中島ひとみ(長谷川体育施設)。高校以来の長い雌伏の時を超えて復活
実に13年ぶりのタイトルを得たとき、過去の自分を振り返った。社会人になって以降も気持ちが腐っていたこと。今思えば、オーバートレーニング症候群で競技場に行く足が止まったこと。
苦しい時間の方が長かったが、「心の芯の部分ではやっぱり勝ちたかった」。だから続けてこられた。
「悔しい思いは何回もしてきたけど、10年以上競技をしている中で、こりずに応援してくれて、支えてくれる人や家族に、初めて代表になる姿を見せたい気持ちが大きいです」
ADVERTISEMENT
一度沈んでしまった選手が、トップレベルへ戻って来られないケースは少なくない。もし、今苦しんでいる人が目の前にいたら、どんなアドバイスができるだろうか。
「私も一度消えていると思いますし、『努力は実る』とか、『夢を追い続けたら叶う』という言葉はあまり好きじゃないです。そう思っていると、苦しい現実を目の当たりにしてつらくなることもあると思います。大事にして欲しいのは、挑戦するプロセスと苦しい場面で何を選択するか。その結果、たくさんの選択肢から悩み抜いて選んだことには、何も恐れず自信を持ってほしいです」
現在の女子100mハードルには、30代前後で活躍する選手がいる。
今季で競技の第一線を退くと表明している寺田明日香は、言わずと知れた元日本記録保持者。35歳の今季もすでに12秒台で走っている。33歳の清山ちさとも、GGPで12秒89の自己新記録をマークしている。
「ずっと見てきた選手と一緒に走れていることがうれしいし、やりがいになっています。先輩たちがこんなに頑張っているから、私も何者かになれるかもしれないと思えました」
同学年の福部は、中学から存在を知る仲だ。
「選手としても人としても本当にすばらしくて。彼女は私にないものをたくさんもっている。同級生で同じ種目で、いろんなことを乗り越えて日本記録を作る姿を見てきたからこそ、頑張りたいなと思えます」
一世代前なら「絶対に優勝できるタイム」だけど…
世界選手権の代表選考会は、7月上旬の日本選手権。女子100mハードルの決勝は最終日の最後の種目に設定された。
「一世代前だったら『絶対に優勝できるタイムなのに……』と思うこともあります。でも、こんなに高いレベルに引き上げてくれた方々と同じ時代に競技者として戦えるということは、よく考えたらとてもありがたいし、素晴らしいことだと思います」
その中で、自身にもあと一歩まで近づいてきたチャンスをつかむために。もう、歩みを止めることはない。

