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「努力は実る、という言葉は好きじゃなくて…」中学で全国制覇→重圧で長期スランプに→29歳で日本歴代3位…元“天才少女ハードラー”の「復活秘話」 

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加藤秀彬(朝日新聞)

加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato

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posted2025/05/30 06:01

「努力は実る、という言葉は好きじゃなくて…」中学で全国制覇→重圧で長期スランプに→29歳で日本歴代3位…元“天才少女ハードラー”の「復活秘話」<Number Web> photograph by AFLO

ゴールデングランプリの女子100mハードルで29歳ながら日本歴代3位の好記録をマークした中島ひとみ(長谷川体育施設)。高校以来の長い雌伏の時を超えて復活

 決勝のレースでは、1.9メートルの絶妙な追い風を受けた。パリ五輪代表の福部、田中佑美に続き、3位でフィニッシュした。

 電光掲示板の中島のタイムには、12秒99の文字が記されていた。

 試合後、あふれる涙が止まらなかった。

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「ずっとつらかったけど、ようやく足場ができた。次のステップへの足がかりの1本になって、めっちゃ気持ちが変わりました」

 もう一度トップレベルで戦う「挑戦権」を得たと思えた。

 時間があれば、他の選手の動画を見るようになった。これまでは、自分との差を痛感してしまいそうで、見たくなかった。

 もっと速くなりたい。その気持ちが自然とわいていた。試合で会った他の選手たちにも積極的に話しかけ始めた。

「なんでそんなにスタートが速いんですか」

 東京五輪や2度の世界選手権に出場した青木益未には、そう質問したという。

 気づけば、中学時代の気持ちがまた戻っていた。

「陸上が、まためっちゃ好きになっていました」

初の海外遠征も…戻ってきた「勝利の渇望」

 東京での世界選手権を控えたこの冬は、日本代表をめざす一心で練習してきた。

 本格的なウェートトレーニングを、初めて週2回採り入れた。走りでも足の回転の速さではなく、手に入れたパワーで地面から受けとる反発の強さを重視するようになった。

 ハードリング技術では、抜き足の改善に着手。コンパクトに、腸腰筋を締めるように足を前に持ってくると、着地の推進力も増した。

 2月には初の海外遠征でニュージーランドやオーストラリアの試合に出場。

「競技をできる時間は限られている。もし行動していれば、ということは残さないようにした」

 迎えた4月29日の織田記念。決勝に福部や田中は不在ながら、初優勝を果たした。国内主要大会での優勝は、高校2年生以来のことだった。

【次ページ】 一世代前なら「絶対に優勝できるタイム」だけど…

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