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「最愛の母を交通事故で亡くし…」韓国の生ける伝説・申ジエ(37歳)が“下り坂”でも賞金14億円に到達できた理由「日本永久シードまで“あと1勝”」
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キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byAtsushi Tomura/Getty Images
posted2025/05/15 06:00

国内女子ゴルフメジャー初戦「ワールドレディスサロンパスカップ」を制した申ジエ(37歳)。生涯獲得賞金は史上初の14億円に到達した
プロ入り後、最大の目標でもあった米女子ツアー賞金女王となったのは2009年。翌2010年には世界ランキング1位に上り詰めた。まさに山の頂上に立った年で、多くのトッププレーヤーが彼女の背中を追った。
そんな申ジエでも年齢を重ねるごとにパフォーマンスの低下は避けられない。全盛期の成績を保つことは難しく、それは自身も認めるところだ。
では、なぜ今もトップ前線で活躍し、メジャー大会を制することができるのか。努力だけではない強さの源が、申ジエの背景を知れば理解できる。
壮絶な事故で最愛の母を亡くす
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2003年、中学3年の時に最愛の母を亡くしている。車でトラックと正面衝突して帰らぬ人となった。練習中の出来事で、同乗していた妹と弟も入院し、家族はどん底だった。
経済的に裕福な家庭でなかったこともあり、母にかけられていた保険金は借金の返済にあてられ、手元に残ったのは1700万ウォン(約170万円)だけ。プロゴルファーの道を諦めるようと考えていた矢先、ゴルフを始めるきっかけをくれた父がこう言ったという。
「お母さんが命と引き換えに残してくれたお金だ。このお金で一生懸命ゴルフをさせるから、一緒にがんばろう」
申ジエは母の死を機に心を強くした。
「これまでは『ミスしても経験だ。次にがんばれば良い』という考えでしたが、その1回のミスで一生、後悔するという事実を知りました。後回しにせず、目の前のことをしっかりすると決めたのです」
悲しくも壮絶な話であるため、日本であまり多く語られることはなかった。しかし、韓国ではあまりに有名なエピソードでもある。すべての“一打”に人生をかけている――その覚悟が彼女を世界1位に後押しした。