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「ちゃんとした言葉は覚えてないんですけど…」渡辺勇大(27歳)が今明かす、“わたがしペア”が解散を決めた日…最後の試合で見た“ある光景”
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byShiro Miyake
posted2025/05/13 11:00
渡辺勇大が明かす、五十嵐有紗との“わたがしペア”解散までにあった思いとは――
「ちゃんとした言葉は覚えてないんですけど…」
お互いの意志を確認する機会が、5月だった。
「お互いになんとなく、話し合いますか、みたいな感じでした」
そのときのやりとりで、両者の思いが等しかったことを確認した。
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「『そうですよね』っていう感じでしたね。ちゃんとした言葉は覚えてないんですけど、気持ちを確認してパリを目指すことで、自分たちの成長をもう少しだけ進めることができたんじゃないかなと思います」
2人がそろってパリを区切り、集大成として考えていたのは、そこに至るまで全力を尽くしてペアとしての完成度を高めてきた過程があり、やりきったと思えるところまで到達していたからにほかならなかった。
迎えたパリでの銅メダルは「いちばんうれしかった」と語る。
「メダルが獲れたというのはもちろん、まさか3位決定戦を2回すると思ってなくて、最後に勝って終わるのと負けて終わるのでは、その思い出もきっと変わってくるかなと思っていたので、うれしかったし、やってきたことが少しは報われたかな、という気持ちでした」
東野との“最後の試合”で渡辺が見た光景
帰国後、最後の大会として出場したのは8月20日に開幕したジャパンオープン。その光景は鮮明に覚えている。
「観客の皆さんがいつもと違う感じだったのかなって思いました。もちろん大声援もありましたけど、温かい感じがいつもよりして、僕ら自身も楽しんでプレーができたと思うし、最後に日本で終われたのがよかったと思います」
2人の決断について、周囲からはどのような反応があったのだろうか。
「もちろん続けていったほうが……という提案もあったし、ファンの方は寂しいって言ってくれて、僕らにとってすごく温かかったです。ただ、お互いに決めたらあまり曲げないタイプなので、自然と最後のジャパンオープンに向けて、という感じでした」
ピリオドを打った渡辺と東野だが、これまで認知度が相対的に低かったミックスダブルスの地位を大きく引き上げた功績も特筆される。2人はなぜ、歴史を塗り替える活躍ができたのか?
「難しいですね。いろいろな要因があると思いますけど、いちばんはお互いの目標というのが世界一だった。目標の定め方が一緒だったのは一つ大きいかなと思っています。もう一つは、震災を経験して、そういう大変な思いをされた方々に僕たちが恩返しできるものといえば、やっぱりバドミントンで結果を出すこと、ニュースとか映像とか見てもらって元気を出してもらうこと。それも大きな原動力の一つになってくれたかなと思います」


