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体重差95キロ「気を抜いたら殺される」五輪メダリストが語った“柔道のシビアな現実”…それでも阿部一二三が“無差別級”に挑んだ「本当の理由」
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布施鋼治Koji Fuse
photograph byAFLO
posted2025/05/03 17:03
4月29日に開催された“体重無差別”の柔道全日本選手権。66kg級の阿部一二三は一本勝ちで初戦を突破したものの、2回戦で敗退した
「技の力がすごくて、最初は耐えられるかなと思ったけど、そこから腰を入れられて持っていかれてしまった」
さらに佐藤は「(途中まで)自分の組手ができていた」と前置きしたうえで、自分の型に入ったときの阿部の常軌を逸した強さを次のように表現した。
「いいところを一個持たれてからの速さとか、そういった部分で投げられてしまったのだと思います。正直、あの角度からはそこまで威力のある技はこないと思っていたんですけど……」
阿部一二三の覚悟「投げるか、投げられるか」
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続く2回戦、阿部は鈴木太陽(日本製鉄)と激突した。100kg超級の社会人1年目で、申告体重は120kgという全日本初出場の柔道家だ。試合開始早々、鈴木はやる気満々。相手の奥襟を掴んで大内刈りを狙っていく。一方、阿部は鈴木が小外掛けを狙っていたタイミングで足を掴んで朽木倒し。その刹那、鈴木が体を反転させ背中から倒れることを拒んだのでポイントにこそならなかったが、この一戦で観客席が最も沸いた瞬間だった。
今大会は組んだ状態からの足とりが認められる特別ルールが採用されている。重量級の選手に軽量級の選手が挑む際、足とりは有効だ。阿部もそのルールを最大限に活かしての攻撃だった。案の定、その後も足をとっての攻撃を狙うが、鈴木も次第にそのタイミングに慣れ、徐々にパワーを生かした攻撃で阿部を追い詰めていく。
残り時間1分を切ったところで、阿部は自ら勢いよく大内刈りを仕掛けにいくが、その瞬間に大内返しを仕掛けられ万事休す。鈴木の巨体に潰されるような形で一本負けを喫した。
返されるリスクを覚悟したうえでの勝負だった。阿部に悔いはなかった。
「(このままいけば)判定かと思ったけど、それは自分らしくないと思いました。投げるか、投げられるか。重量級と勝負したら、そうなることはわかっていた。担げるなら、抱きついてでも大内刈りにいこうと思った」
1回戦同様、最後の大内刈りは理詰めの仕掛けだったことも打ち明けた。
「間合いが遠くて、なかなか技が決まらない。だったら足を持っての大内刈りが有効かなと思いました。ただ行き過ぎると、やっぱり……。でも勝負できてよかった」

