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体重差95キロ「気を抜いたら殺される」五輪メダリストが語った“柔道のシビアな現実”…それでも阿部一二三が“無差別級”に挑んだ「本当の理由」 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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posted2025/05/03 17:03

体重差95キロ「気を抜いたら殺される」五輪メダリストが語った“柔道のシビアな現実”…それでも阿部一二三が“無差別級”に挑んだ「本当の理由」<Number Web> photograph by AFLO

4月29日に開催された“体重無差別”の柔道全日本選手権。66kg級の阿部一二三は一本勝ちで初戦を突破したものの、2回戦で敗退した

 ちなみに永山と橋本の全日本挑戦はいずれも2回目だったが、やはり前年度の五輪メダリストというだけで注目度は違っていた。そういった意味では、東京五輪に続きパリ五輪でも金メダルを獲得した阿部の全日本初挑戦は、現役五輪メダリストの中でも期待値が一際高かったといえる。外野からは「重量級を相手に得意の袖釣り込み腰は決まるのか」という声も聞こえてきた。

対戦相手の想像を超えた阿部一二三の底力

 筆者は1990年開催の全日本での古賀稔彦の活躍を思い出さずにはいられなかった。古賀は体重75kg前後だったにもかかわらず、重量級の選手を次々と撃破。当時最重量級だった95kg超級の小川直也との決勝へと駒を進めた。同大会を会場で観戦する機会に恵まれたが、古賀が自分より重い選手を担ごうとする瞬間の、会場の盛り上がりといったらなかった。「体重無差別ならではの面白さ」を感じた原点は、古賀の全日本挑戦だった。

 あのときの古賀よりさらに体重は軽いが、いまや全盛期を迎えつつある阿部が持ち前のスピードと技の切れ味を駆使したら……。阿部の無差別級挑戦への期待感は広がるばかりだった。そんなファンの思いに応えるかのように、阿部は初戦で激突した申告体重81kgの佐藤佑治郎(山形県警察)を相手に、両袖を持っての背負い投げで一本勝ち。どちらかといえば押されていた試合展開の中、超満員の会場を大きくどよめかせた。

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 決戦前日の会見で阿部は「投げにいく柔道で勝負したい」と宣言していたが、それを具現化した格好だ。会見で阿部はこうも言っていた。

「優勝とか簡単に口にはできないけど、全日本選手権という舞台に立つことで自分の柔道のレベルをもっともっと上げられる。軽量級だからこそ会場を沸かせられる。古賀先生みたいに、軽量級でも重量級と闘えるんだぞと子供に夢を与えられる柔道を意識しながら頑張りたい」

 佐藤戦後、阿部は対戦相手の動きを見極めたうえで得意技を決めたことを明かした。

「大外刈りを打ったら相手は警戒して姿勢がまっすぐになっていたので、袖釣り込み腰を決めることができました」

 一方、敗れた佐藤は「これが世界か」と阿部の階級差を超えた底力に脱帽した。

【次ページ】 阿部一二三の覚悟「投げるか、投げられるか」

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