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体重差95キロ「気を抜いたら殺される」五輪メダリストが語った“柔道のシビアな現実”…それでも阿部一二三が“無差別級”に挑んだ「本当の理由」
posted2025/05/03 17:03

4月29日に開催された“体重無差別”の柔道全日本選手権。66kg級の阿部一二三は一本勝ちで初戦を突破したものの、2回戦で敗退した
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布施鋼治Koji Fuse
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AFLO
これぞ、オリンピックでは味わえない柔道のもうひとつの醍醐味。4月29日に日本武道館で開催された天皇杯全日本柔道選手権は「柔よく剛を制す」を堪能させてくれた。
「気を抜いたら殺される」体重差という“シビアな現実”
男子60kg級の永山竜樹、66kg級の阿部一二三、73kg級の橋本壮市(いずれもパーク24)と、軽量級のパリ五輪メダリストたちが無差別級で争われる今大会にエントリー。いずれも見応えのある攻防を繰り広げた。
パリでは最軽量60kg級で銅メダルを獲得した永山は、初戦でなんと95kgも体重差のある入来巨助(筑波大)と対戦した。入来は今大会最重量の巨漢。奇しくも初戦で最軽量と最重量の一騎討ちが実現したわけである。昭和23年から続く長い全日本の歴史の中でも、これだけ体重差のある組み合わせは初めてと言われている。永山は果敢に攻め込んだが、見た目は大人と子供。体格差は如何ともしがたく一本負けとなった。
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試合後、永山は「柔よく剛を制す」の理想が通じないシビアな現実を赤裸々に語った。
「もうちょっとやりたかったけど、さすがに重すぎました(笑)。声援? いや、ちょっと沸いていると思ったけど、もう無我夢中で。ちょっとでも気を抜いたら殺されると思ったので」
同じくパリ五輪で銅メダルを獲得した橋本は初戦で32kg差、2回戦で8kg差と体格差のある対戦相手と対峙しながらも勝ち上がって3回戦へ。ここで木元拓人(日本製鉄)と雌雄を決したが、身長差20cm、体重差57kgを克服できず寝技で固められ一本負けを喫した。
それでも、橋本は「僕が持っている力は全て出し切れた」と満足そうに激闘を振り返った。
「全日本選手権は柔道家だったら誰もが目指す場所だけど、僕も闘っていてそういう気持ちになった。この大会のために準備してきたので、変な試合はできないと心の中で決めていた。目標は準々決勝まで進むことだったけど、やっぱり重量級は強かった」