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プロ野球PRESSBACK NUMBER
新庄剛志監督の奇策に「マジやん…」日本ハム“恐怖の9番”水野達稀が驚かなかったワケ…純度100%の新庄野球「そういえばボスもいい匂いしますよね」
text by

酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2025/05/20 17:01
昨季5月にプロ初本塁打を放った日本ハムの水野逹稀。今季はショートのレギュラーにして“恐怖の9番”としてチームの首位快走に貢献
《プロ野球人生の中で、エラーして人生を終える選手はいないから。それがきょう、たまたまあっただけ。あとは彼がどう切り替えていくか》(道新スポーツ)
水野は少し救われる思いがした。
この花形のポジションは新庄にとっても思い入れがある。
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新庄は外野手として1990年にタイガース入団後、ショートへのコンバートを熱望し、内野手として登録された。92年、故障で離脱した主力のトーマス・オマリーに代わって一軍に抜擢されたときは、ほとんど実戦経験がなかった三塁で先発出場した。やがて外野に回り、強肩と華麗な守備で球界を代表するスタープレーヤーにのし上がったが、内野を守って活路を開いた原点がある。だから、新庄はゴロをさばくときの間合いなどの感覚も持っている。いまは基本的に担当コーチに任せており、多くを指導することはない。
それだけに水野は数少ない助言をよく憶えている。
6月上旬、マツダスタジアムでの広島東洋カープ戦の試合前練習中のことである。
「速い打球のときこそ力を抜け。水野は固まっちゃうから」
こんなことを新庄に言われたという。ショートは遊撃手と書く。字のごとく、動きに遊びがあってこそ強烈なゴロに対峙できる。だが、ゴロを無難にさばこうとすれば体が固まってしなやかさが失われ、流麗な身のこなしにならない。
水野は新庄の助言を生かしながら、ショートの定位置で地歩を固めていった。
自分の人生が大きく動きだしたのだと水野が実感したのはオフである。
「アマチュアの頃から、プロ野球選手はすごくお金を稼いでいるイメージがありました。いまも自分はまだ理想ではないのですが、契約更改で初めて一気に跳ね上がったので評価していただけたのだなと実感しました。初めて『プロ野球選手』になれた気がします」
やはり、仏頂面を崩さずに、そう言った。
「そういえばボスもいい匂いしますよね」
長くファイターズにおいて不在だったショートのレギュラーを摑み、右へ左へ前へ後ろへと軽やかに動く。そうやって大航海を進める帆船の舵として航行を安定させてきた。派手でなくても、「いぶし銀」の働きで貢献する仕事人がいるチームは強い。おもに9番を打つ水野はまさに、そんな存在として輝きを発している。
インタビューを終えて引き揚げるとき、水野はおもむろに黒いリュックからガラスの小瓶を取り出した。そしてシュッシュッと自らに霧を振りかけた。
「いい匂いすると、テンション上がりますよね。いろんな種類を持っていて使い分けています。そういえばボスもいい匂いしますよね」
そう言って笑った。柔らかい表情を見せたのは初めてだった。
気骨と香水。この振れ幅の広さが攻守のキーマンの魅力でもある。
<前編から続く>
