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「将棋を嫌いになりつつあった」「体も心も削り取られる1年」順位戦降級危機と敗戦直後…高見泰地が今も感謝する“後輩棋士の寄り添い”とは
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大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byShintaro Okawa
posted2025/04/20 06:03

満開の桜となった中でインタビューに応じてくれた高見泰地七段。新たな年度も、順位戦で渾身の棋譜を残すはず
後手の大石の一手損角換わりに対し、序盤をうまく乗り切った。だが中盤で前を向いた手が、「悪いとまでは言えないけど冴えなかった」と高見は述懐する。迷った時は積極的に駒を前に出す。これは多くの棋士のよすがになっている姿勢だと思うが、またしても裏目に出てしまったのだ。将棋は何て難しいのだろう。
大石も高見と星取りは同じだが、終盤に星を伸ばしてきている。そこが下降気味だった高見とは違った。
大石は強かった。高見が自陣に手を入れるとすかさずとがめて優位に立ち、淀みなく攻めて押しきった。高見は、敗れた。
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「とても平常心ではいられませんでした。感想戦の後に、大石さんに『気にしないでください』ってなぜか言っちゃって。大石さんも『いやいや』って、お互いに謎のやり取りがありまして(笑)。その後は逃げるようにその場を立ち去りました」
徳田くん、負けた方に寄り添ってくれようとしたんです
将棋会館を出てから、後輩の徳田拳士四段が感想戦を見守っていたことを思い出した。
「彼は大石さんと僕の両方と親しいんです。負けた方に寄り添ってくれようとしたんですね。本当にいい子ですよ」
その場で徳田に電話をかけると、走って追いかけてきてくれた。近くの串カツ屋に入る。「静かなバーだったら死んじゃうと思った。賑やかなところにいたかったんです」と高見は述懐する。
まだ降級が決まったわけではない。他の2局次第だが、高見は自分で確認する勇気がなかった。代わりに徳田がスマホで確認してくれるのを薄目で覗き見る。まず羽生−大橋戦で大橋が勝ったことがわかった。あとは斎藤−三浦戦だ。
それでも頑張れたのはやっぱりA級を目指しているから
高見は経験したことのない感情を味わっていた。誰かの負けを願っていたわけではない。なるようにしかならない、という諦念だった。
「大丈夫でした」
徳田のその一言で、高見は自身が助かったことを知った。体中から力が抜けた。
「残留できたことが嬉しかったです。メチャメチャ嬉しいんですけど、この1年で傷を負ったというか、疲れたなって。本当に体も心も削り取られるような感覚があったので」
改めてどんな1年だったのか。