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「将棋を嫌いになりつつあった」「体も心も削り取られる1年」順位戦降級危機と敗戦直後…高見泰地が今も感謝する“後輩棋士の寄り添い”とは 

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大川慎太郎

大川慎太郎Shintaro Okawa

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posted2025/04/20 06:03

「将棋を嫌いになりつつあった」「体も心も削り取られる1年」順位戦降級危機と敗戦直後…高見泰地が今も感謝する“後輩棋士の寄り添い”とは<Number Web> photograph by Shintaro Okawa

満開の桜となった中でインタビューに応じてくれた高見泰地七段。新たな年度も、順位戦で渾身の棋譜を残すはず

 後手番ながらまずまずの展開に持ち込み、少しリードを奪うことができた。これ以上ない状況だが、精神的に追い込まれているとどうしても時間を多めに使ってしまっていた。秒読みに追い込まれ、勝負になる順を逃してしまう。そして高見は静かに頭を下げた。

 5勝6敗。初めて負け越しに転じることになった。

「ラスト3局の石井戦、広瀬戦、大石戦を3局セットで見てしまったのがよくなかった。それまでに5勝していたから、3局のどこか1局で勝てばいい。でも石井戦であんな負け方をして、それを引きずってしまった。広瀬先生にも負けて2連敗したので最後は絶対に勝たなきゃいけない。でも負けた将棋のことは気にしてもしょうがないんですよ。1局単位で見なきゃいけないんです」

人間の心理だと、落ちる方を引くんじゃないかと

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 運命の最終13回戦。5勝6敗の高見は、同じ5勝6敗の大石と関西将棋会館で向き合っていた。

 最終戦を迎えた時点で3勝の山崎は降級確定。残りの2枠は羽生、三浦、高見、大石の誰かが引くことになる。高見は勝てば自力で残留を決められるが、負けると羽生と三浦の両者が敗れないと助からない。他者の星取りが頭から離れなかった1年だったが、この時ばかりは虚心坦懐で将棋盤に向かった。2024年11月にオープンした高槻市の新会館を高見が訪れるのはこの時が初めて。楽しみにしていたはずが、そんな気持ちにはなれなかった。

「大石さんは好きな先輩で、B級2組の時は『一緒に上がれたらいいよね』なんて話をしていたんです。実際に一緒に昇級できて、まさかこんな形で残留を争うとは思わなかった。対局数は少ないんですけど、長時間の将棋で勝ったことはなかった。正直、勝てる可能性は5割だと思いました。ということは負ける可能性も5割ある。そうなると人間の心理だと、落ちる方を引くんじゃないかと思ってしまう。これは本当にきつかったですね」

もし降級したら…将棋を嫌いになりつつあった

 決めていたことがあった。もしB級2組に降級したら、一生懸命向き合ってきた研究会を全部止めるつもりだった。

「将棋が嫌いにならないようにお休みしようかな、と。あまりに苦しくて、将棋を嫌いになりつつあったんです。そんなことは初めてでしたね」

 終わってから考えればいいことだが、自分の心を守るためだったのだろう。人生の並走者でもあった将棋にネガティブな感情を少しでも持つこと自体が異常事態だった。

【次ページ】 徳田くん、負けた方に寄り添ってくれようとしたんです

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