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「なんでだよ。ふざけんなよ」日本ハム・松本剛が涙した二軍行き…なぜ首位打者を獲れたのか? 才能を開花させた新庄マジック「開幕4番で行くからな」
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酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/19 11:14
新庄剛志が日本ハム監督に就任した2022年、屈辱の二軍行きから首位打者を獲得した松本剛
「開幕4番でいくからな。4番目のバッターだと思って気楽にいけよ」
一瞬、なにを言われているのか、理解できなかった。だが、一軍のオープン戦に再合流した3月8日のマリーンズ戦ではスタメンで3安打を放ち、覇気を見せていた。意気に感じ、背中を押されて気楽になれた。
「正直、あの内野安打がなければ、本当に極論ですが首位打者も獲れていないと思うぐらいです。僕はそのとき、実績もなかった。急に4番で出てあの試合でヒットを打てなかったら、絶対にもうスタメンを外れていたと思います。ヒットが1本出て、2安打できたことが僕の野球人生に大きな影響を与えたことは間違いありません」
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なぜあのとき、自分が4番だったのか、いまもわからないという。次の日は4番ではなかった。だが、「開幕4番」で刻んだ2安打が松本剛に確かな光をもたらし、その後も快音を奏でつづけた。勢いは夏も衰えず、3割5分を超える高打率を維持していた。
好事魔多しとはよく言ったもので、首位打者争いを独走するなかで試練が訪れた。7月19日、バファローズ戦の守備中に左膝を負傷し、膝蓋骨の骨折で戦線を離脱したのである。ファン投票で初出場するはずのオールスターを欠場し、二軍での実戦復帰まで4週間かかる見通しだったが、1カ月も経たないうちに一軍に戻ってきた。まだ実戦の守備に就いておらず、全力疾走もできないのに早々と呼び戻したのは、松本剛の規定打席数を満たし、首位打者を獲らせようとする新庄の“親心”からきていた。
センターで出たいという気持ちが強い
悔し涙から始まった首位打者への道。プロ11年目で開眼し、ベストナインに輝き、球界を代表する外野手に成長した。新庄の熱情が咲かせた、遅咲きの花だった。
松本剛は昨季、開幕から打撃不振に陥り、打率は.236にとどまった。今年は打率3割を目標に挙げるなか、こだわりも持っている。
「昨シーズンが始まるまでは外野のポジションならどこでも出られるなら出たいと思っていました。いまはセンターで出たいという気持ちがより強くなっていて、というか、めちゃくちゃ強いです。正直、今年もセンターのレギュラーを獲りたいんです」
チームはオープン戦で優勝すると、開幕後も白星先行で滑り出した。船長の新庄に率いられた帆船は、まずは順風の船出である。長丁場の航海において、その舳先には波の衝撃に耐える頑丈さと波をかわすしなやかさが求められる。酸いも甘いも知る松本剛は船首のごとく、すべてを受けとめる覚悟でいる。

