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将棋PRESSBACK NUMBER
「藤井なら驚かないですね」師匠が笑い、強すぎる王将・藤井聡太は「充実感」、「どこが勝負所か」と永瀬拓矢は嘆くも…名人戦が楽しみなワケ
text by

勝又清和Kiyokazu Katsumata
photograph byJIJI PRESS
posted2025/04/06 11:01
王将4連覇を果たした藤井聡太。名人戦でも相まみえる永瀬拓矢ら各棋士はその強さをどう捉えているか
藤井の飛車が2筋に回り、永瀬は右辺の守りに備えていた。飛車先の歩を藤井がじっと進めたところで昼食休憩となる。
昼食休憩明けには、地元の小学生が対局室に招かれ、対局再開の様子を見学した。私も遠目で見ていたが、緊迫した雰囲気の中、静かに真剣に対局者と盤に目を向けていた。あとで一人に感想を聞いてみると「緊張しました。足がしびれたあ」と笑った。うんうん、貴重な経験をしたよ、君は。
藤井優勢が拡大…うまい、うますぎる
藤井は繊細な手順で2筋を押し返していく。このままでは押しつぶされそうな永瀬は金を応援に繰り出して支える。そして大きなため息をついた。対局態度を見ても形勢は明らかだ。とはいえ永瀬らしい粘り強い手順で、検討陣もなかなか永瀬陣を攻略できない。
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だが、藤井の指し回しは巧妙で、4筋から手を作って桂を跳ね、駒がどんどん押していく。永瀬は攻め味を増やすため1筋の歩を突き捨てるが、藤井は無視した。と金を作られても構わずに駒を前進させる。
なぜ藤井の優勢が拡大したか、それは6四に打った角を5三→4四→5三と小刻みに動かしたことによる。これで相手の言い分を通さず、自分の攻めだけ通してしまった。盤外では謙虚なのに盤上では図々しい要求をすべて通してしまう。永瀬をもってしても止められない。うまい、うますぎる。これは決まったと見て藤井猛が和服に着替えにいく。
こうなったら大駒を見捨てて最後の突撃か、と見ていたが、永瀬は凄まじい辛抱をした。角桂を銀と交換し、飛車を逃げたのだ。大きな駒損をしてさらに後手を引くのでは、普通は終わりだ。だが調べてみるとスッキリしない。藤井陣右辺は金銀逆形でスキがあり、飛車が追われたときの逃げ場が難しいのだ。さすがは永瀬、勝負への執念は薄れていない。
「(藤井陣が)どうやっても味が悪いですね」
なかなか正解がわからず、佐々木がため息をつく。
「有利さをどうやって実利に結びつけるか、優勢な将棋をどうやって勝つかが大事だよね」
藤井猛も言う。いつもながら含蓄ある言葉を言うなあ。
強すぎた。それしかない
これまでなるべくAIの候補手を見ないで検討していたが、藤井猛が「考えずに見るのはダメだけど、一所懸命検討した後ならいいんだよ」と言い、佐々木がモバイル中継の候補手を確認した。その手を見て、全員で「なるほど」と感心する。果たして藤井はその手を指すのか?
やがて藤井は6分の考慮の末、7筋の歩をつまんだ。△7五歩!

