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「こ、ここでか!」王将・藤井聡太22歳に棋士達が震えたのは“プロ9年で初の2手目”だけでなく…「2回も驚いちゃったよ」「雁木の専門家みたい」

posted2025/04/06 11:00

 
「こ、ここでか!」王将・藤井聡太22歳に棋士達が震えたのは“プロ9年で初の2手目”だけでなく…「2回も驚いちゃったよ」「雁木の専門家みたい」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

王将戦4連覇を達成した藤井聡太。第5局で見せた凄みは「プロ9年で初の2手目」だけではなかった

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勝又清和

勝又清和Kiyokazu Katsumata

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 第83期名人戦は藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑む戦いとなる。同じカードかつ2日制で行われた3月の王将戦第5局で、現場を訪れた“教授”こと勝又清和七段が見た「プロ9年で初の2手目」だけでない、各棋士の藤井将棋への畏敬とは。〈NumberWebレポート/全2回。第2回につづく〉

後手でプロ初の△3四歩…おおっ、ここでか

 藤井聡太王将に永瀬拓矢九段が挑戦する、ALSOK杯第74期王将戦七番勝負第5局が、3月8、9日に埼玉県深谷市「旧渋沢邸 中の家(なかんち)」で行われた。ここまでは、藤井3連勝の後、永瀬が1勝を返している。その1勝によって、第64期王将戦(2015年2月)以来10年ぶりに、埼玉県でのタイトル戦が実現した。

 8日午前9時、立会人藤井猛九段の「定刻になりましたので」という声で対局がはじまった。先手の永瀬が飛車先の歩を突くと、藤井はいつもどおりのルーティンでお茶を一口飲んでから2手目。

 △3四歩!

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 おおっ、ここでか、と自宅モニターの前で私は叫んでいた。

 藤井はデビュー以来、2手目は△8四歩以外指しておらず、公式戦では初めて指す。しかも2手目△3四歩のカリスマ藤井猛の眼前でとは、やるではないか。藤井猛は後手番655局中、2手目△8四歩は2局だけだ。さすがの永瀬もすぐには手が出ず、1分の考慮で角道を開ける。永瀬は序盤に時間を使わない棋士だが、藤井の△3四歩に意表をつかれたのは明らかだ。3手目に時間を使うなんて珍しいなと、いつ以来か調べてみる。なんと100局以上前、渡辺明王将に挑戦した2021年3月13日の第70期王将戦七番勝負第6局までさかのぼり、4年ぶりだった。

未知の大地を藤井と永瀬は開拓していった

 かくして初の△3四歩から藤井が選んだ作戦は雁木。これまで、飛車先保留角換わりの出だしから雁木に変化したことはあるが、ダイレクトな雁木は初めてだ。藤井も永瀬も、細かいところで工夫している。両者の一手一手の意味を説明するだけで膨大な文量が必要だ。永瀬は早めに銀を繰り出し速攻を見せる。これは藤井の得意戦法で、2人の作戦はあわせ鏡のようだ。永瀬が21手目に仕掛けると、藤井が銀取りに歩を突き出して反発する。部分的には前例があれど、同一局面はなく、未知の大地を2人が開拓していく。

 角交換後、互いに角を打ち合った局面が次なるポイントだ。

【次ページ】 藤井猛「2回も驚いちゃったよ」

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