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「もうグランドスラムには戻れないなって」錦織圭と同学年の〈消えた天才〉森田あゆみの長い苦闘…それでもテニス愛を貫けた「真の才能」とは
text by

山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2025/03/21 17:01

グランドスラム本戦初勝利をあげた2010年のウィンブルドンでの森田あゆみ(当時20歳)
ショットの感覚を失い、余計な力が入るように
2018年に指の腱の手術をしてから、失われた感覚が取り戻せないことにも気力を奪われた。何度も奮い立たせたが、それもいつしか尽きた。
「繊細な感覚は私のテニスの大事な部分だったので、それを失ったのは致命的でした。 もともと、手首の力を抜いて体の連動で打つタイプだったから、余計なところに力が入ると、バランスがとれなくなって、ヒット力もショットの精度も落ちてしまって。時間の問題だと思っていたけど、何年がんばっても戻ってくることはなかったです」
引退を決める前のシーズンは、ケガをしてから最多の12大会に出場した。それでもWTAランキングが500位を切ることはなかった。 それだけ戦ったからこそ、「戻れない」と認めることができたのだろう。
再び、丸山コーチと二人三脚で
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ともに完全復活を目指してきた丸山コーチに思いを伝えた。一度もぶつかり合ったことがないという二人の思いが、ここで食い違うはずはなかった。コーチと選手が20年もの間、一度も離れることなく歩むケースは稀だ。その関係性がそうさせたのだろうか、森田は次に進む道をすでに「コーチ」と決めていた。
「一番上のレベルも見て、ケガをして、一番下も見て、あらためてトップで戦うために必要なことがわかった。自分だから伝えられることがあると思っています」
実は11年前、丸山コーチは森田の再起のほかにもう一つ使命を語っていた。
「次に僕がやるべきことは、選手ではなく指導者を育てることだと考えています。自分が経験してきたこと、持っているノウハウをしっかりと次に伝えなければいけない。今は森田のことが第一。でもそれを終えたら、次はツアーコーチを育てたいんです」
あのとき、まさかその役目を森田自身が引き継ぐとは想定していなかったに違いない。