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「もうグランドスラムには戻れないなって」錦織圭と同学年の〈消えた天才〉森田あゆみの長い苦闘…それでもテニス愛を貫けた「真の才能」とは
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山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2025/03/21 17:01

グランドスラム本戦初勝利をあげた2010年のウィンブルドンでの森田あゆみ(当時20歳)
片手打ちへの挑戦も「腕折れる!(笑)」
実は14歳の頃、初めて体感した海外選手の高速サーブの前に、「届かない」「間に合わない」と両手打ちの限界を感じ、「片手打ちに変えたい」と願い出たことがあったという。丸山コーチは好きに試させてくれたが、数日で自らあきらめた。
「これ無理じゃん、腕折れるしって(笑)」
その経験で迷いは吹っ切れた。超高速ショットにも対応できるよう、反応速度を高め、予測力を研ぎ澄ませた。振られても片手でなく両手でしっかり打ち返せるようにフットワークを鍛え、差し込まれてもコート内にねじ込むコントロール力を磨いてきた。
錦織フィーバーの時代に…第一線から消える
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ケガさえなければ、その挑戦はもっと大きな花を咲かせただろうか。テニス選手では20代後半でピークを迎える事例の多さを見ても、その可能性は十分にあったといっていい。
手首の手術をした翌年から2020年までの5年間で出場した大会は、合計しても12大会。勝ち星はたった8つだった。2021年には6大会に出て勝ち星も12まで増えたが、それはプロツアーの最底辺にあたるカテゴリーを転戦して、なんとか増やせた勝利の数だった。
現役引退の理由
しかし、最後にグランドスラムの本戦のコートに立った2014年の全豪オープンから9年後、32歳の誕生日を迎える頃、ついに引退を決意した。あの場所にはもう戻れないと悟ったからだ。理由は、複合的である。
まず、完治したと思っても試合になると痛みが出る症状が改善しないこと。そのため、必要な強度のトレーニングができないこと。
「練習試合では問題ないのに、実際の試合が続くと痛みが出るという状況が長くて……。そうすると、練習やトレーニングで強度を上げることができない。上のレベルにいたから、そこに戻るために必要な強度は自分でよくわかります。
もといた場所、グランドスラムに戻ることがゴールだったので、その目標がある限りはキツいトレーニングもリハビリも全然つらくなかったけど、それができないのはつらかったです。だったら戻ることは無理だとわかっていたので」