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寺地拳四朗の“想像を超えていた”ユーリ阿久井政悟の覚悟…名勝負はなぜ生まれたか?「倒しにいけとは言わなかった」加藤トレーナーに聞く激闘のウラ側
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/03/15 17:12

ユーリ阿久井政悟と名勝負を繰り広げ、WBA・WBC統一王者となった寺地拳四朗。寺地を支える加藤健太トレーナーに激闘のウラ側を聞いた
「堤聖也選手が昨年10月、井上拓真選手からベルトを奪いましたよね。堤選手は高校生のときから、勝てなかった拓真選手にいつかは勝ちたいと思っていたそうです。堤選手には長い期間積み上げてきた思いがあった。ユーリくんからもそういう思い、覚悟を感じました。それを跳ね返すのは、簡単ではなかったということです」
「倒しにいけ」と言わなかった理由
寺地はペースをつかみ切れず苦しんでいた。7回が終わると、赤コーナーは思い切って作戦変更を決断した。
「ユーリくんのスタイルは、拳四朗のパンチを受けて、パンチを返す。そう決めているとよく分かりました。それでもこちらは正面突破できると思ったんですけど、もう変えないとダメだと。受けて返す、受けて返すのタイミングをワンテンポずらす。そういう揺さぶりが必要だと思いました」
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8回、寺地は正面突破ではなく、「いかない」という選択肢も存分に使ってボクシングを組み立て始める。タイミングをずらしながら打っては右に下がり、阿久井を引き込んでいった。このタイミングで作戦を変えたことが吉と出るのか、凶と出るのか、この時点では寺地サイドにも分からなかった。
8回以降、寺地はジャブの精度を上げた。展開は依然として一進一退、スコアが読めない状態が続く。11回を終え、加藤トレーナーは「少し負けているかもしれない」と感じた。その読みは当たっていた。11回終了時の採点はジャッジ2人が105-104で阿久井リード、もう1人が106-103で寺地リードだったのだ。
それでも加藤トレーナーは最終回を迎える寺地に「倒しにいけ」とは言わなかった。
「倒しにいけと言って倒せるものでもないですし、自分がブレてしまうほうが勝利から遠ざかってしまうと感じました。それにユーリくんがちょっと緩んできているとも感じましたから」