寺地拳四朗の“想像を超えていた”ユーリ阿久井政悟の覚悟…名勝負はなぜ生まれたか？「倒しにいけとは言わなかった」加藤トレーナーに聞く激闘のウラ側 

　国技館の観衆が手に汗を握って迎えた最終ラウンド。このまま判定決着かと思われた矢先、寺地の会心の右ストレートが阿久井のアゴを打ち抜いた。グラついてバランスを崩した阿久井を寺地が攻める。阿久井はカウンターを狙い、フラフラという状態ではなかったが、寺地のパンチが続けてヒットしたところで、中村勝彦レフェリーが割って入った。激闘はこうして幕を閉じた。

12ラウンド、寺地の右が阿久井のアゴを打ち抜いた瞬間　©Naoki Fukuda

「ボクシングの奥深さを勉強させてもらった」

　試合翌日、気丈に記者会見した阿久井は次のように話した。

「自分が100％に近い力をぶつければ勝算はあると思ったけど、最後まで持続するのは難しくて、そこで上回られたのが勝敗を分けたのかなと思う。（中略）とにかく無事にリングから下りられたことがデカい。ストップに異論はありません」

中村勝彦レフェリーに抱きかかえられる阿久井　©Takuya Sugiyama

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　苦しい試合を乗り越え、加藤トレーナーはボクシングの難しさをあらためて感じたと振り返る。

「今回のユーリくんは気迫が技術になっていたように感じました。もともと高い技術を持っているんですけど、気迫によって技術を出す回数を増やしているというか。気迫だけでも、技術だけでもダメなんですけど、今回はボクシングの奥深さを勉強させてもらった思いです」

　寺地をあそこまで追い詰めたのは、阿久井の周到な準備であり、リスクを恐れない覚悟だった。そして苦しみながらも最後に勝ちをつかみ取った寺地には戦況に対応する柔軟さと修羅場をくぐり抜けてきた経験があった。実に見ごたえのある一戦だった。