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寺地拳四朗の“想像を超えていた”ユーリ阿久井政悟の覚悟…名勝負はなぜ生まれたか?「倒しにいけとは言わなかった」加藤トレーナーに聞く激闘のウラ側
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/03/15 17:12

ユーリ阿久井政悟と名勝負を繰り広げ、WBA・WBC統一王者となった寺地拳四朗。寺地を支える加藤健太トレーナーに激闘のウラ側を聞いた
「ユーリくんの世界戦3試合は、下がる相手をユーリくんが追うという内容でした。ああいう展開になると絶対に勝てない。だから勝利の大前提はプレッシャーを受けて簡単に下がらないこと。そうさせないためにユーリくんの圧力をどれだけ止められるかが一つのポイントでした」
「試合が決まってから作った覚悟じゃない」
寺地がエンジンをふかしたのは4回だった。テンポをさらに上げてジャブ、右ストレート、左フックも打ち込んでペースを奪いにかかる。セコンドは手ごたえを感じた。
「4、5、6回でペースを取れると思いました。4回をいい感覚で戦えて、ユーリくんがちょっと弱ってきたと思った。そうしたら5回にユーリくんが気合いを入れ直してきて、6回も取られました。雲行きが怪しくなってくる中、7回も拳四朗の運動量を信じてもがいたんですけど……5回がひとつポイントでした」
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中盤、寺地はプレッシャーを強めたり、ポジションをずらしながらアッパーを使ったり、目先を変えながら阿久井を崩しにかかった。ところが阿久井は4回にペースダウンしかけたものの、5回に立て直してからは崩れる気配をみせない。得意の右を盛んに打ち込み、近づいてはボディブローを連打するなど、むしろ勢い付いていくような印象だ。そのパフォーマンスは、相手セコンドの想像を超えていた。
「スタートからユーリくんの覚悟がすごかった。打たれるつもりというか、打たれる前提に立って打ち返してくる。あれは試合が決まってから作った覚悟じゃない。僕はユーリくんが1カ月間の東京合宿でボクシングを作ってくると思っていたんです。1カ月であのボクシングを作ることはできません。そうか、あれは何年もかけて準備してきたものなのか。そう感じました」
ユーリが寺地と初めてスパーリングをしたのは2年ほど前にさかのぼる。その強さに衝撃を受けた阿久井は寺地を「強さの基準」に置いた。この選手を超えるためにはどうすればいいのか。自分には何が足りないのか。そう考え続け、トレーニングに落とし込んだ数年間は、イコール「寺地対策」の期間でもあったのだ。加藤トレーナーの言う「何年もかけて準備をしてきた」はそういう意味である。