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寺地拳四朗の“想像を超えていた”ユーリ阿久井政悟の覚悟…名勝負はなぜ生まれたか?「倒しにいけとは言わなかった」加藤トレーナーに聞く激闘のウラ側

posted2025/03/15 17:12

 
寺地拳四朗の“想像を超えていた”ユーリ阿久井政悟の覚悟…名勝負はなぜ生まれたか?「倒しにいけとは言わなかった」加藤トレーナーに聞く激闘のウラ側<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

ユーリ阿久井政悟と名勝負を繰り広げ、WBA・WBC統一王者となった寺地拳四朗。寺地を支える加藤健太トレーナーに激闘のウラ側を聞いた

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Hiroaki Yamaguchi

 WBA・WBCフライ級王座統一戦が3月13日、東京・両国国技館で行われ、WBC王者の寺地拳四朗(BMB)がWBA王者のユーリ阿久井政悟(倉敷守安)に12回1分31秒TKO勝ち、ライトフライ級に続いて2団体統一に成功した。両チャンピオンがスタートからデッドヒートを繰り広げ、劇的な幕切れを迎えた熱戦を、寺地とともに戦った加藤健太トレーナー(三迫)と振り返る。

「寺地有利」予想も、加藤トレーナーが恐れていたこと

 劇的なフィニッシュに会場がどよめく。そして国技館に大きな拍手が響き渡る。寺地の勝利者インタビューをかき消すように、退場する涙の阿久井にどこからともなく「ナイスファイト!」の声が飛ぶ。史上3度目となる日本人世界王者による統一戦は、両チャンピオンが力の限りを尽くす名勝負となった。

 戦前の予想は寺地有利だったが、過去の実績からいえばそれは当然だった。2階級制覇王者の寺地は世界戦の勝利数が日本歴代3位の15勝(10KO)、対する阿久井は昨年世界王者になったばかりで世界戦の勝利数は3。KO勝利は一度もなかった。

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 加えて両王者は過去に何度もスパーリングをしたことがあり、阿久井が世界初挑戦した昨年1月の前のスパーリングは、阿久井本人が「ボコボコにされた」と明かしていたほど。スパーリングと試合はまったく別物とはいえ、こうした情報も寺地有利予想の根拠となっていた。

 しかし、加藤トレーナーには恐れていることがあった。それは阿久井が寺地のボクシングを体感し、身をもって寺地の強みを知っていることだった……。

迷いや躊躇が一切ない…過去2試合の阿久井とは別人に

 阿久井の覚悟がはっきりと伝わってくる立ち上がりだった。鋭くジャブを放ち、右ストレートをボディに突き刺す。目を引くのは動きの一つひとつに迷いや躊躇が一切ないということだ。相手がパンチを出せば必ずパンチを打ち返す。執拗に放つかぶせるような右は時折寺地の顔面をとらえた。過去2試合、下がる相手をつかまえ切れず、消化不良の判定勝ちを重ねた阿久井とはまるで別人だ。

 もちろん寺地もいつものようにテンポは速く、手数もパンチのバリエーションも少なくはなかった。それでもスコアは互角ながら、前に出る阿久井が押し気味にも見える。加藤トレーナーが戦前の青写真を明かした。

【次ページ】 「試合が決まってから作った覚悟じゃない」

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