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「朝練はナシ」「走行距離は月300キロだけ」箱根駅伝の名伯楽が「アイツにだけは負けるな」…25年前、東大にいた“天才ランナー”の超合理的練習法
text by
別府響Hibiki Beppu
photograph by本人提供
posted2025/03/15 11:02
25年前、東大で箱根駅伝常連校エース級の活躍を見せていた新妻拓弥。今年で47歳になるいまも走り続ける異色のランナーの背景はどんなものだったのだろうか
5000mの自己ベストは14分59秒。県レベルではそれなりに強い。だが、全国的には全くの無名。それが、高校時代の新妻の置かれた立ち位置だった。
「当時は早稲田の渡辺康幸さんがスター選手で、箱根駅伝にももちろん憧れました。ただ、実力的に箱根の強豪校から声がかかるレベルではなかったです」
一方で、もちろん行こうと思えば一般受験での入学という手段もあった。実際に新妻も早稲田で走ることも考えたという。のちに東大に合格したことからもわかるように、もともと学力的には問題のないレベルでもあった。
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「ただ、学術的な面を考えるとやっぱり東大という場所も魅力的で」
当時から理系を志していた新妻は、大学院まで進学する可能性が高かった。そしてそのためには、学部の内から研究にも時間がかかるのは目に見えていた。仮に本気で箱根路を目指すとなれば、そういった学業面のリソースをかなり駅伝に割かざるを得ない。しかも当時の新妻の実力では、それだけやっても「走れる確証」がなかった。
そうして進路に悩んだ結果、新妻は東大の受験を決めた。
結果的に、ここで新妻は箱根駅伝への憧れを完全に断ち切っている。当時は学生連合チームの計画もない。学生陸上最大の大舞台への切符を、逡巡の末に破り捨てることになった。
「今でも私は箱根駅伝を“見ない人”です（笑）。もちろん今年のように母校の選手が出るとなれば興味は持ちますけど、基本的には視聴率30%弱の残り7割の方ですね」
新妻はそんな風に苦笑する。
ところが皮肉なことに、この選択こそがのちに新妻の才能を開花させることになる。
東大では「異色のトレーニングスタイル」
箱根路への想いはともかくとして、東大入学直後から新妻は陸上競技に打ち込むことは決めていた。ただ、箱根強化校から声はかからなかったとはいえ、国体の県代表には選ばれるレベルである。1年目の春の記録会で、すでに東大の陸上運動部の中ではトップのタイムになってしまった。
一般的に長距離競技において、力を伸ばすうえで重要なのは自分より格上か同等クラスのランナーの存在である。普段のトレーニングから切磋琢磨することで上限が引き上げられる。独力での練習となると、精神的にもフィジカル的にも非常に厳しいものとなる。
