「朝練はナシ」「走行距離は月300キロだけ」箱根駅伝の名伯楽が「アイツにだけは負けるな」…25年前、東大にいた“天才ランナー”の超合理的練習法 

　だが、新妻はまったくそれを意に介さなかった。

「私は主に中距離選手と一緒に練習していました。中距離は私よりもスピードがある選手もいましたから。長い距離の練習はほとんどしなくて、例えば400mのインターバルをメイン65秒、つなぎ45秒で10本とか。今の人でも難しいくらいの強度で、高速インターバルをやったりしていましたね」

　結果的に大学時代は月間でも走行距離は300km前後だったという。これは学生トップクラスのランナーの中では極めて少ない。実際に他校の選手からは「新妻は練習しない」と言われていたという。だが、それでも新妻は第1回でも触れたように20kmを走る当時の箱根駅伝予選会でも、有力校のエースたちに先着している。

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　その裏には、新妻らしい超合理的な考え方がある。

「20kmのジョギングなら」みんなできる？

　前提として、そもそも新妻は練習量を増やすことにそこまで意義を見出していなかった。

「『よくそれで20km走れるね』と言われることもありましたけど、みんな20kmのジョギングならできるじゃないですか。なぜ走れないのかというと、速いスピードで最後まで持続できないのが問題なんです。じゃあ最高スピードを鍛えるか、そのスピードを維持するための練習に取り組めるかどうか。それを意識してやっていましたね」

1999年の日本インカレ5000mで先頭を走る新妻。後ろには永田宏一郎（鹿屋体大）や徳本一善（法大）ら往年の名ランナーの姿も／本人提供

　朝練も基本的にはしていなかった。朝の9時頃から授業にでて、16時に講義が終わればそこから1時間～2時間トレーニング。その後は専攻の研究に戻ることもあれば、塾講師のアルバイトに向かうこともある。そんな日常だったという。

　かように独特な練習スタイルは、おそらくほかの駅伝強豪校ではなかなか難しい形だったはずだ。だが、東大の陸上運動部には、最初からそういったフレキシブルなトレーニングを許してくれる空気があった。

「あとは練習強度が高い分、とにかくケガをしないことは意識しました。ちょっとでも違和感があったら練習は止めて、三食しっかり食べる。休養と栄養には気を使っていました。それから何より大事なのは、『距離を踏んでいないと20kmは走れない』という先入観を持たないことですね」

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