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“日本記録を連発”の田中希実が楽しむ自分へのご褒美とは…世界を転戦する“ノマドランナー”が語る一番好きな国「自分の居場所は世界各国にある」 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byShizuka Minami

posted2025/03/03 11:04

“日本記録を連発”の田中希実が楽しむ自分へのご褒美とは…世界を転戦する“ノマドランナー”が語る一番好きな国「自分の居場所は世界各国にある」<Number Web> photograph by Shizuka Minami

米国での室内大会で4試合連続で日本記録を樹立した田中希実(25歳)。世界を転戦する理由を明かした

「バルト三国の一つですが、物語のように街並みが可愛くてジョギングするのが楽しかったです。食事も東欧料理と北欧料理がアレンジされたようなもので美味しかったです」と教えてくれた。

 本好きの田中にとって作者の出身地や物語の舞台の都市を訪れるのも楽しみの一つだ。昨年、ダイヤモンドリーグのストックホルム大会への出場が決まった際、「『魔女の宅急便』の舞台のモデルになった街の一つとも言われていますし、『長くつ下のピッピ』もスウェーデンが舞台なんです」と目をキラキラさせながら教えてくれた。

 期待に胸を膨らませながら訪れたが、現実のストックホルムは想像以上に大都市で「ちょっと思っていた感じとは違いました」と苦笑いする場面も。街が大きすぎると各所に信号があり、ジョギングコースを選びにくい。気持ちよく走れるかどうかも田中にとって大きなポイントだ。

自分の居場所は世界各国にある

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 ノマドワーカーが滞在先でお気に入りのカフェやワークスペースを見つけるようにノマドランナーの田中も小さな楽しみを積み重ねながら、日々を楽しむ。

 都市間を移動しながらの試合では食事する場所やコインランドリーを探すのもストレスになったり、外出が億劫になることも多いが、田中はそんな素振りを一切見せない。

 携帯の地図アプリを使って練習コースの目星をつけるほか、面倒な地下鉄も乗りこなす。

「プロ活動を始めてから、居場所っていうものをすごく意識するようになりました。まったく走れない場所ってないと思うんです。走れる環境さえあれば楽しいし、落ち着けることに最近気づきました。走れる場所があってそれが自分の居場所になるなら、結構どこでも大丈夫なんじゃないかなと思うようになりました」

 どこにいても自分のペースで走り出せば、そこが心地よい場所になる。

 到着した翌朝、知らない街を走る瞬間がとても好きだ。特に川や海、森など自然がある場所は心が浮き立つ。

「ボストンは川沿いを走るのが気持ちいいので大好きな街の一つです。それと整備されている道を走るのも楽しいですが、道がなかった場所を皆が歩いて道になった場所や動物がいるような場所もテンションが上がります。ケニアでは逃亡防止のために羊の足が紐で繋がれているんですけど、たまに紐がちぎれている羊がいて、『あの羊どうなるんやろ』と父(田中コーチ)と話しながら走るのも楽しかったです」

 厳しい試合、練習の合間のジョギングも楽しみながら歩を進める。

新ツアーに唯一のアジア選手として参戦

 今季は米国で新しく創設された陸上ツアー『グランドスラム(3日間で2種目を走って勝者を決める)』に出場予定だ。田中を含めた48選手(通称レーサー)たちは、各種目の48人の挑戦者とともに4月のジャマイカを皮切りに4試合を回る。

 田中は3000mと5000mに出場予定だが、「大会創設を聞いたときは、『自分も出てみたい』と思いました。でも小学生の時に五輪を見ているような遠い世界のような感覚で、自分には敷居が高いと思いました。だから出場が決まったときはうれしかったです」と話す。

【次ページ】 グランドスラムのファイナル後にやりたいこと

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