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「あのラウンドを取っていたら…」堤聖也と比嘉大吾の“激闘”を長谷川穂積はどう見たのか?「辞める人間の表情じゃない」比嘉に伝えた“ある言葉” 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2025/02/28 17:45

「あのラウンドを取っていたら…」堤聖也と比嘉大吾の“激闘”を長谷川穂積はどう見たのか?「辞める人間の表情じゃない」比嘉に伝えた“ある言葉”<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

お互いにダウンを奪い合う激闘を繰り広げた堤聖也と比嘉大吾。長谷川穂積さんはこの一戦をどう見たのか

 量より質か、質より量か。長谷川さんがAmazonプライムビデオの『ボクシングナビ プレミアムラウンジ』内で使っていたフレーズだ。

「量(手数)が堤選手、質(的確性)が比嘉選手。手数勝負になったら比嘉選手が勝つのは難しい。10発の手数に対して、確実に3発当てればポイントが取れる。比嘉陣営はそこで勝つことが一つの方法かなと思っていましたけど、それを実行していると感じましたね。その中でジャブはジャッジがポイントをつける上で重要なパンチだったと思います」

劇的なダウンの応酬「比嘉選手はいきすぎました」

 4ラウンドまでのスコアは39-37が2人、40-36が1人。もともと堤はスロースターターで、ガードの上からでも軽いパンチを当てながらピッチを上げていくスタイルだが、比嘉はうまく戦ってそれをさせず、堤は手数を増やしていくことができない。さらに4回、堤は不運にも偶然のバッティングで右目上をカットしてしまった。

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「あれはかなり影響があったと思いますね。僕は何度も切れたことありますけど、集中力を欠くんですよ。少なくともベストの集中力からは落ちる。血が目に入りますし、グローブで血をぬぐう動作もしますよね。あれは普段のスパーや試合ではやらないから、それをやるだけでも集中力はちょっと削がれる。止められて判定決着の可能性も生まれます。だとしたらポイントも取っておかなくてはいけない。堤選手は焦りを感じてなかったかもしれないけど、これもペースをつかめなかった原因の一つになったかもしれません」

 8回を終了してジャッジ3人は78-74で挑戦者のリードとつけた。迎えた9回、比嘉が左フックでダウンを奪う。多くの人が比嘉の勝利を確信した瞬間だった。しかしここから試合はドラマティックな展開を見せる。仕留めにいった比嘉に、堤が渾身の右カウンターを打ち込み、比嘉がバッタリと前のめりに倒れたのだ。何とか立ち上がったものの、比嘉のダメージは深刻に見えた。

「あの場面、比嘉選手はいきすぎました。僕はすぐに現役時代の鳥海純戦を思い出しました(※2004年10月、長谷川さんはこの試合に勝利し、次の試合で初めて世界王座を獲得する)。サウスポー対決で、僕が5回に左アッパーを打ちにいって、思い切り左ストレートをカウンターでもらったんです。自分がペースをつかんでだんだん気持ちよく試合ができるようになっていた矢先でした。何も考えず、無防備にアッパーを打ちにいってもらってしまった。何とか倒れず、脚を使ってしのぎましたけど、あれは本当に効きました。だから比嘉選手も無防備に流れでいってしまったのかなと思うんです」

【次ページ】 堤聖也へのエール「勝負強さは素晴らしい。ただ…」

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