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「あのラウンドを取っていたら…」堤聖也と比嘉大吾の“激闘”を長谷川穂積はどう見たのか?「辞める人間の表情じゃない」比嘉に伝えた“ある言葉”
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渋谷淳Jun Shibuya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2025/02/28 17:45
お互いにダウンを奪い合う激闘を繰り広げた堤聖也と比嘉大吾。長谷川穂積さんはこの一戦をどう見たのか
堤聖也へのエール「勝負強さは素晴らしい。ただ…」
完全に記憶の飛んだ比嘉は以降、本能で戦い、何とかゴールテープを切るが、9回以降はすべて堤が押さえてドローに持ち込む。ここが勝負の分かれ目となった。
「堤選手はあれで勢いがつきました。もし比嘉選手がカウンターをもらわず、あのラウンドを10-8で取っていたら、以降も気持ちよくボクシングをして勝利していた可能性が高いと思います。もちろんボクシングに『たられば』はないんですけど」
裏を返せばそれは堤の勝負強さでもあった。
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「よくボクシングで『今日はオレの夜じゃなかった』という表現をしますけど、けっこう深い言葉だと思っているんです。『勝負は時の運』とも言います。実力差があると関係ないんですけど、拮抗した試合だと本当に『勝負は時の運』で、『今日はオレの夜じゃなかった』って試合がいっぱいあるんです。堤選手は何か負けない運があると感じます。ギリギリのところで勝つ。もちろんその運は堤選手が日々の練習で引き寄せているものなんですけども」
前半うまく戦いながらも勝利をつかみそこねた比嘉。長谷川さんは会場を出る本人にたまたま出くわし、短く言葉をかわしたという。
「もう1回やろう、あれで終わるのはもったいないよ。そう声をかけました。比嘉選手は特に続けるとも辞めるとも言いませんでしたけど、僕は間違いなく続けると感じました。辞める人間の表情ではなかったので」
堤は昨年10月、最大の目標である井上拓真(大橋)からタイトルを奪うというミッションを完遂、心身ともに難しいとも見られていた初防衛戦を辛うじて乗り越えた。そんなチャンピオンにも、長谷川さんはエールを送る。
「いつも熱い試合を見せてくれて、勝負強さは本当に素晴らしい。9回のカウンターも見事でした。ただ、紙一重はいつまでも続かない。ギリギリで勝ち続けることはできません。だからそうなる前にしっかり勝てる実力をつけてほしいと思います」
<那須川天心編に続く>


