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「大谷翔平や藤浪晋太郎に抜かれて…劣等感を」中学時代は日本No.1投手だった“消えた天才”、今何している?「もし過去に戻れるなら…」本人の回答
text by

中村計Kei Nakamura
photograph byAsahi Shimbun
posted2025/02/21 11:03
大谷翔平世代の中学日本代表エース・横塚博亮さんは桐蔭学園に進学した
「子どもたちが藤浪と一緒にプレーしていたのを知っているので、電話して欲しいみたいなことを言うんです。東京都で優勝したら電話してやるよって言ってたら、去年の12月、4年生以下の部で本当に優勝しちゃって。電話したんですけど出てくれませんでした。今度、藤浪に会うことがあったら伝えておいてください。出てくださいよ、って」
そこは「出ろよ」ではなく、「出てください」なのだと思った。それが今の2人の距離感なのだろう。
元No.1投手の本音「抜かれるのは嫌です」
ほとんどの人は、日本でいちばんになった経験などない。だから、その日本一から転げ落ちたときの気持ちもわからない。横塚が語る。
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「落ちたなというよりは差が詰まって、みんなと並んだのかなと思いました。みんなは中学時代は横ばいだったけど、高校で伸びた。自分は中学のときは伸びたけど、高校は横ばいだった。中学時代の貯金だけでやっていた感じですね。ケガばっかりで、実質、半分ぐらいしか練習できていなかったので」
並び、そして抜かれた。もっと言うと、一生、手の届かないところまで行かれてしまった。
――嫌じゃないんですか?
「嫌ですよ。いちばん上を経験しているので」
戻れるとしたら。そう問うた。
「高校選びですね。どこ行っても甲子園に出られるって思ってしまった」
「俺、大谷に打たれてないよ」
中学時代、名前すら記憶していなかった大谷の活躍に嫉妬することはないのだろうか。
「それはもう超えました。今は、まだまだ活躍して欲しいと思ってますよ。その方がネタになるので。メジャーのピッチャーはこんなにホームラン打たれてるけど、俺、打たれてないよってめっちゃ言えますもん。一生、自慢できるじゃないですか」
16年前のあの日、横塚は確かに2打席のうち1打席は一塁ゴロに抑えた。しかし、もう1打席はヒットを打たれている。
「先にファーストゴロだったよ、って言うんです。2の1(2打数1安打)だったって言うと、バッターの勝ちだって言われちゃうので」
横塚の表情を見ながら、もはや勝ち負けの問題ですらないのだと思った。
30歳になった横塚は、もはや王ではない。そのことの残酷さと、幸福と。その2つは別々のものではなく、コインの裏表であるようにも思えた。


