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野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
平均体重は2年で67kg→77.8kgに…29歳監督率いる神奈川県の野球部が“超フィジカル主義”で甲子園を目指すワケ 目標体重届かず「ベンチ外になる主力も」
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村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2025/02/20 11:01
29歳の若さで藤嶺藤沢高の野球部を率いる菊地幹監督。チームに一大改革をもたらし、フィジカル重視を打ち出した監督の思惑とは?
トレーニング機材を一新し、ウェイトルームが大幅に拡大される。新しい機材を揃えるような潤沢な部費なんてあるわけがないのだが、ここでも菊地は強運だった。たまたま竹下のジムが拡大移転で機材を一新するタイミングと重なり、無償で提供を受けることができたのだ。さらにジムからは多くのプロ野球選手の身体作りを指導しているトレーナーが派遣され、本格的なフィジカルトレーニングがはじまった。
これまでになかった徹底的な筋力トレーニングと、食の指導と休養。トレーニングの詳細な記述は控えるが、3勤1休のペースで、やるべき時は猛烈に追い込み、やらない時はやらない。プロテインなど栄養を効果的に摂取し、必要な筋肉を蓄えさせたが、練習量自体は前年の冬の猛練習の半分にも満たないものだった。
菊地は手はじめに、春までの4カ月の間のそれぞれの体重増の目標を定めた。
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指標は身長−体重=100。漠然とした目標を決めるだけでは意味がない。菊地は不退転の覚悟を示すためにも、部員全員にこんな提案をした。
「この数字をクリアできなければ、エースであろうと、主力打者であろうと、春の大会のベンチ入りから外す」
難しい選択である。なぜなら、努力していても、体質で体重がなかなか増えない選手、手を抜いていても元から体重があるためにクリアしてしまう選手など、個人差でラインが変わってしまう理不尽がどうしても起こってしまうからだ。
目標未達ならレギュラーでもベンチ外に
それでも部員たちは菊地の覚悟を感じ取ったのか、すんなりと提案を受け入れた。冬の練習がはじまり、部員たちは目の色を変えてトレーニングに打ち込んだが、当然目標に至らない選手もいる。やがて春になり結果が出る。菊地は宣言通り、数字だけを見て、ぶった斬った。
その結果、ピッチャーとレギュラーの1番、2番、3番、5番打者が春の地区予選でベンチ外に。あとわずか100g足りない選手も例外なく外した。
「菊地はガチでやる気だ」
その時、関係者ほか、選手たちが震え上がった。
レギュラーのほとんどが外されてしまう異常事態に、菊地は選手たちと話し合いの席を持った。
「どうだ、今の心境は?」
菊地は批判されることを覚悟で外された選手たちに問うと、意外な言葉が返ってきた。
「目標に到達できなかった自分たちが悪いです」
その言葉を聞いた時、菊地は身体と同等に心が成長している部員たちに確信を持った。
2024年3月。ひと回りサイズアップした藤嶺藤沢の選手たちは、春の大会直前に東海大相模と練習試合を行った。地元藤沢出身の超高校級エース藤田琉生(現日本ハム)の登板こそなかったが、この試合に引き分けると、春の県大会では前秋の大会でコールド負けを食らった平塚学園を相手に競り勝つことができた。


