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「常人じゃ藤井聡太さんに勝てません。きついですよー」永瀬拓矢が“評価値的に逆転負け”直後…電話口で本音「自分がいいと。形勢を誤った理由です」
text by

大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/02/11 06:01
王将戦第3局、藤井聡太七冠の前で天を見上げる永瀬拓矢九段
代案の▲6二銀不成という符号を出すと、永瀬はすぐに「あーっ」と漏らしてから苦笑した。少し間を置くと、キッパリとした口調で話し始めた。
「▲6二銀不成が成立するのは非常に特殊なケースです。両対局者が見えていなかったわけですし、指せなくても反省する点は特にないと思っています」
あまりに明瞭な口調なので驚いていると、永瀬は続けた。
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「そもそも桂で銀を取る本譜が悪くないという組み立てだったんです。それを悪い手だと判断しなければ浮かんでこない手ですから」
そうなのだ。▲6二銀不成という超絶手が存在することよりも、玉のそばの銀を取る本譜が悪い手だったということに何よりも驚かされる。現地を訪れていた勝又清和七段もまずそのことに言及していたのを思い出す。
藤井さんも大丈夫だと判断して踏み込んだわけですし
一つ疑問が浮かんだ。本譜の桂で銀を取る手で悪くないと見ていたのなら、誤算があったことになる。それはどこだったのか。
「後手が玉で桂を取ってきた手に対しては▲4六馬と引くか、本譜の銀打ちだと思っていました。馬引きが利けばよりいいなとは思っていたのですが、読んでいるうちに成立しないことがわかりました。藤井さんも大丈夫だと判断して本譜に踏み込んだわけですし」
確かに藤井は終局後に「わからなかったのですが、簡単に(後手玉が)寄る感じではないと思っていました」と話している。
永瀬は話を続けた。
「本譜の銀打ちが元からの予定だったんですけど、自分は形勢がいいと思っていたのに、実際は悪かったのがいただけないですね。その前からずっと自分の形勢がいいと思っていたことも判断を誤った理由の一つです」
自分が優勢だと実感している時間が長くて、さらに銀を取る手も自然だと見ていれば、形勢が悪いとは夢にも思わないだろう。具体的にはどこで非勢を意識したのか。
「(118手目に)銀取りに桂を打たれて、▲3六銀は△4七歩で悪そうなので、本譜は消去法で4六に銀を立ったんですけど、銀取りに歩を打たれて悪い気がしましたね。▲3六銀が利かないのではな、と」
持ち時間が3時間以上残っていたとしても
もう一つ気になったことがある。本譜の桂で銀を取る手が負けで、代案の▲6二銀不成が指せなくても反省の必要がない手なのだとしたら、先手はもう少し前で別の手を選ばなければいけないことになる。それはどこか。


