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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「施設育ちの少年が井上尚弥と戦うなんて…」密着カメラマンが知るキム・イェジュン壮絶ボクサー人生「ひとりで生きるためにボクシングを始めた」
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2025/01/28 11:04
井上尚弥と対戦したキム・イェジュン(32歳)
周知のことだが、今回の井上戦は急転直下で決まったマッチメイクだった。対戦予定だったサム・グッドマンが負傷により欠場が決定。アンダーカードでの試合を予定していたキムに白羽の矢がたった。
またとないチャンスに即決したキムだったが、興奮していたのは密着を続けてきた2人も同じだった。
「数カ月後に控えたメインイベントではない試合の準備をしていて、当初は場所もオーストラリアか日本かという予定だったそうです。それに向けて身体作りをしている最中でした。ちょうどオーストラリア合宿中にプロモーターのマイク・アルタムラ氏から連絡を受けたんです。私はその場に一緒にいませんでしたが、井上選手との対戦が決まったことで、重圧よりも最高の選手と試合ができるんだという期待でものすごく興奮していたと聞きました」
「ジムと家を行き来するだけ」「タバコも酒もしない」
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自らの立ち位置からは、到底マッチメイクできないはずの井上との試合が巡ってきたことに闘志を燃やすキムだが、普段はとにかく冷静で感情の揺れ動きもほとんどない。映像を残したいムン氏は苦笑いする。
「ある意味、冷たい性格にも見えますが、それはボクシングしかしていないからなんです。周囲でほとんど会う人もいなければ、ほかに趣味や好きなことがあるわけでもない。ジムと家を行き来するだけで、たまに何か家で映像を見ているなと思ったら、ボクシングの映像ばかり見ている。正直、友達なら楽しくないでしょう(笑)」
性格もさることながら、活動範囲の狭さは経済的な理由も関係してくる。
「ボクサーということもありますが、普段から当然タバコも吸わないし、お酒も飲まない。それにファイトマネーもそんなに高くはなく、金銭面の苦労もある程度は想像できる。密着して驚いたのは、食べる物まで最小限に切り詰めていることでした」
食事の摂生はアスリートであれば当たり前かもしれないが、ムン氏はこう分析している。
「表現が正しいのか分かりませんが、最小の効率で最大の効果を出している選手ではないかと私は常に思っています。それにケガのリハビリも書籍を読み、ネットからも情報を得て自ら研究して、合ったものを探し出して実践しています。すべては世界チャンピオンになるという目標のためなんです」