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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「韓国でも井上尚弥の記事ばかりだった…」逃げなかったキム・イェジュンを母国メディアはどう報じた? “かませ犬”が韓国ボクシングに投じた一石
posted2025/01/28 11:03
text by
キム・ミョンウKim Myung Wook
photograph by
東京スポーツ新聞社
「謎の韓国人ボクサー」
あまりの情報の少なさから、試合前はネガティブな表現が散見された32歳のキム・イェジュン。
絶対王者・井上尚弥に挑むも、4回2分25秒に強烈なワンツーを浴びてリングに崩れ落ち、屈辱のKO負け。下馬評を覆すことはできなかった。
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だが、キムの人生には新たな光が差し込みつつある。わずか12分間、圧倒的な実力差で敗れたにもかかわらず――。
井上尚弥に勝つためにリングに上がった
入場シーンのキムの表情はふてぶてしかった。約1万5000人が詰めかけた観客席からは時折、「キム・イェジューン!」と叫ぶ声が飛んでいたが、応援団らしき集団は見当たらない。会場には二転三転した末に井上の対戦相手に抜擢されたキムの実力を懐疑的な目で見る雰囲気が漂っていた。
しかし、完全アウェイの中でもキムは勇敢だった。
ダウンする前、王者に対して「来い、来い」と挑発した行為は批判の対象になってもおかしくなかったが、「井上選手が私の方に近づいてきたところでパンチを打ちたかった」と真相を明かしたように、最後まで真っ向勝負を挑んだことは観客たちにも伝播していた。
逃げ腰でもなく、汚さもない。地道に磨き上げてきた技術を駆使した戦いぶりもさることながら、敗戦後の涙もまた大観衆の胸を打った。
試合前、リング上にある大型スクリーンには、両親のいないキムが5歳から施設で育ち、20歳からボクシングを始めて今に至る姿が紹介され、そうした背景を知ったファンも感情移入しやすかったかもしれない。
それでも、花道を引き揚げるキムに対して、リング上の井上だけでなく、すべての観衆が拍手で称えていたことが、グッドルーザーであったことを証明していた。なんとも清々しい空気に、キム本人も陣営もきっと驚いていただろう。